近年の電力ひっ迫や多発する自然災害により、停電は度々発生しています。
冬に停電が発生すると、エアコン、電気ストーブ、ファンヒーター、オイルヒーター、床暖房など、暖房機器の多くは電気で動くため使えなくなります。冬に暖が取れなくなると、状況次第では凍死のリスクもあるため、停電しても暖が取れる備えが必要です。
停電時に必要な明かりの確保や断水の可能性については、夏の停電対策と基本的に共通のため、「停電に備える」の記事で詳しく解説しているので、ご参照ください。ここでは、停電時における冬の寒さ対策について紹介します。
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停電に備える 〜なぜ発生し、なにが起こり、どう備えるか〜目次
《電気を「使わない」対策》
寒さ対策の基本は、冷気の遮断と厚着。アルミブランケットも便利
寒さ対策の基本は、冷気を遮り、厚着をすることです。
家において窓は面積が広く、直接外気に触れるため、窓の断熱対策をしないと部屋全体が冷えやすくなります。
停電で暖房器具が使えなくなった場合、いわゆるプチプチなど緩衝材や、プラダン(プラスチックダンボール)、アウトドアで使うような銀マットを貼ることで、窓の断熱をすることができます。
お金をかけるのであれば、平時に断熱効果の高いペアガラスや二重窓にしておいたり、厚手のカーテンに変えることで断熱効果を高めることができます。
暖房器具が使えない状況では、厚着をして体温を保持するようにしましょう。靴下や手袋などで手足までしっかりと寒さ対策をすることが重要です。
100円ショップでも販売されているアルミブランケットは、体温を反射して保持することで温かさを維持してくれます。アルミブランケットはコンパクトに持ち運びできるため、自宅だけでなく外出先での被災に備え、防災ポーチにも入れておきましょう。
温かい飲み物やスープ、カセットコンロ、食品用加熱袋(モーリアンヒートパックなど)
冬の寒い停電時に、温かい食事や飲み物、スープを摂取することで、体の中から温まり、精神的な安らぎも得ることができます。
ガスが止まっていなければ自宅のコンロで調理やお湯を沸かすことができますが、ガスが止まると使えませんし、オール電化の家庭では停電すると何もできなくなります。
停電しても、ガスが止まっても使えるカセットコンロと、十分量のカセットボンベは必須アイテムのため、備えておきましょう。
また少し特殊ですが、発熱剤に少量の水を加えるだけで発熱し、食品や飲み物を温めることができる食品用の加熱袋もあります。
代表的なのは、「モーリアンヒートパック」です。水と酸化カルシウムの反応熱を利用した製品で、モーリアンヒートパックの場合、アルミニウムやアルカリ水溶液を加えることで、安定して約98℃の熱を発生することができます。
5年保存が可能で、防災向きです。少量の水素が発生するため火気厳禁ですが、火を使わず、有害物質の排出もない安全でクリーンな製品です。
パックご飯、缶詰、缶に入った飲料などを温めることができます。
湯たんぽ
湯たんぽは冬の定番であり、古くからある寒さ対策グッズです。プラスチック製のものは、薬局などで比較的安価に購入することができます。
当然ですが、湯たんぽを使用するなら湯を沸かす手段を考える必要があるため、カセットコンロとカセットボンベも忘れずに備えておきましょう。
また、湯たんぽは専用の袋やタオルなどで包んで使用し、低温やけどにも注意しましょう。
使い捨てカイロ
火も電気も使わない暖房グッズの定番といえば、使い捨てカイロです。カイロは、鉄が空気中の酸素と化学反応し、酸化鉄(水酸化第二鉄)へ変化する時に発生する熱を利用しています。
普段使いにも便利であり、火を使わないため安全性が高く、封を開けるだけで温まり、単価が安いのがメリットです。
効果的に体を温めるためには、低温やけどに注意し、貼るタイプのカイロの場合は服の上から貼るようにしましょう。血液の流れが豊富な場所を温めるのが効果的です。太い血管がある首(前でも後ろでも効果あり)や脇の下、大きな筋肉(僧帽筋や最長筋など)がある背中や腰を集中的に温めるようにしましょう。
普段から使うのであれば、ローリングストックで多めに備蓄しておきましょう。
使い捨てカイロの使用期限は約2~3年で設定されています。使用期限は、「表示してある温度規格を保証できる期間」であり、期限が切れたものがすぐに使えなくなるわけではありません。期限切れのものは、最高温度が高くなったり、持続時間が短くなることはありますが、使用することができます。
防災用に長期備蓄可能なカイロも販売されています(こちらは貼らないタイプになります)。普段カイロを使わない家庭であれば、備蓄用カイロを購入しておくのも一手です。
ハクキンカイロ
ハクキンカイロは、大正時代に発売された歴史あるカイロです。コンパクトでシンプルな構造ながら、長時間使用することができます。
ハクキンカイロは注油し気化したベンジンを、プラチナ(白金)触媒で化学反応させることで発熱します。発熱した後は水と二酸化炭素に分解されるため、非常にクリーンな発熱システムです。
触媒が劣化しない限り繰り返し使え、使い捨てカイロの13倍の総熱量を発生し、少量のベンジンで最大24時間発熱するため、非常に効率のよい暖房器具です。触媒は交換することができます。
使い方も簡単で、専用の計量カップを用いてベンジンを注入し、化学反応を開始させるためにプラチナ(白金)触媒をライターなどで数秒炙れば発熱が始まります。本体を裸で使用すると熱すぎるため、専用のケースに入れるとちょうど良い温度になります。
最初だけ火を使いますが、ベンジンを燃やすわけではありません。あくまで化学反応を開始させるエネルギーを与えるだけです。
燃料は、カイロ専用のベンジンが販売させていますが、コンビニなどで売っているジッポーオイルで代用することができます(メーカー推奨ではありません。しかし、ジッポーからも同じ原理のハンディウォーマーが販売されており、こちらはジッポーオイル使用が推奨されています。さらに、ジッポーのハンディウォーマーは、ハクキンカイロがOEM生産しています)。
“元祖”ハクキンカイロには、最大24時間発熱する「スタンダード」と、12時間発熱する「ミニ」があります。
ハクキンカイロの使い方
石油ストーブ
石油ストーブは灯油を燃料とするストーブであり、寒冷地域でよく使用されます。製品によっては、上部にやかんや鍋を乗せてお湯を沸かしたり、煮炊きなど調理器具としても使える点がメリットです。
注意点として、燃料の灯油は使用期限は定められていないものの、酸化などで劣化します。劣化した灯油を使用すると機器の故障につながるため、一般的に灯油の期限は1シーズンとされています。
石油ストーブは燃料の長期備蓄ができないため、普段から使う家庭においては、消費しながら燃料を多めに備蓄(ローリングストック)しておくと冬の停電対策になります。灯油を保管するポリタンクを多めに備えたり、家庭に灯油タンクが備わっていれば、常に多めにストックしておきましょう。逆に、普段から使わない家庭では防災対策には向きません。
点火に乾電池を使用するタイプも多く存在するため、点火方法を確認しておきましょう。電池切れの場合、マッチやチャッカマンなどで点火できる場合もあるため、併せて確認しておくと安心です。
石油ストーブと紛らわしいのが石油ファンヒーターですが、大きな違いは送風ファンの有無です。石油ファンヒーターはファンを搭載しているため、電源がないと使用できません。防災的に有用なのは石油ストーブです。
火を使う製品であるため、火災に注意が必要です。特に地震後の停電では、余震に十分注意しましょう。
カセットガスストーブ・カセットガスファンヒーター
石油ストーブを使わない家庭で備えておきたいおすすめの暖房器具が、カセットガスストーブまたはカセットガスファンヒーターです。
燃料となるカセットボンベは、正く使えば安全性が高く、簡単・安全な燃料備蓄の手段と言えます。
カセットボンベを備蓄しておけば、防災の必需品とも言えるカセットコンロの燃料にもなるため、備蓄した燃料を共有できます。鍋物などにカセットコンロを使用すれば、普段使いしながらガスを消費することもできるため、ローリングストック向きであり、おすすめです。
カセットコンロとカセットガス 〜燃料を安全に備蓄でき、災害時でも温かい食事にありつくために〜おすすめは、カセットボンベで有名なイワタニから発売されているカセットガス暖房器具です。「マイ暖」「デカ暖」「風暖」の3種類が存在し、いずれも電池・電源不要で、カセットボンベのみで使用することができます。
特に「風暖」は、電池・電源を必要とせず、熱で発電してファンヒーターを回して部屋全体を暖めてくれる優れものです(その分、値段はやや高めに設定されています)。
それぞれ安全装置も充実しており、「不完全燃焼防止装置」「立消え安全装置」「転倒時消火装置」「圧力感知安全装置」が備わっているため安心です。災害時にも使うものだからこそ、安全性は重視したいポイントです。
注意点として、あまりに寒い環境下ではカセットボンベは揮発しなくいため使えなくなります。
一般的なカセットボンベは、充填されているブタンガスの特性により、ガスの温度が10℃を下回ると気化しにくくなり、5℃以下ではほとんど気化しなくなるため使えません。
アウトドア向けの低温に強いカセットボンベも販売されています。ブタンガスでも気化率の良いイソブタンの比率が高くなっており、通常のボンベよりも低温下で使用することができます。目安としては、5℃を下回ると気化しにくくなり、0℃以下になるとほとんど気化せず使えなくなります。
カセットガスボンベは、パッキンが経年劣化するため7年が使用期限となっています。同様の理由で、カセットガス機器(コンロやストーブなど)は10年で買い替えが推奨されています。
極寒地域にお住まいの方は、暖房用としてカセットボンベの備蓄は向いていません。
暖炉、薪ストーブ、囲炉裏、七輪、豆炭アンカ
暖炉、薪ストーブ、囲炉裏、七輪、豆炭アンカがある家庭は多くはありませんが、元々これらを所有しているのであれば、燃料となる薪や炭を備蓄しておくことで、冬の停電に備えることができます。
豆炭アンカとは、火のついた豆炭(小さく丸めた炭)を中に入れて暖を取る、湯たんぽのような昔ながらの暖房器具です。一粒の豆炭で10時間〜15時間暖かさが持続するため、非常に効率のよい暖房器具です。
いずれも使用する環境に注意し、火災や一酸化炭素中毒には注意しましょう。
《電気を「使う」対策》
電気を使う冬の停電対策をする場合、大容量のモバイルバッテリーや、ポータブル電源を備えておく必要があります。
家庭用コンセントに差して使う暖房器具の場合、ポータブル電源が必須となります。しかし、暖房器具の多くは消費電力が大きいため、使える時間が限られたり、より大容量のポータブル電源が必要となります。
ここでは、消費電力が少なくて長時間使える暖房器具を紹介します。
防災にポータブル電源とソーラーパネル 〜停電してもベランダ発電で電源確保〜充電式ハンディウォーマー、充電式湯たんぽ
充電式ハンディーウォーマー(充電式カイロとも呼ばれる)や充電式湯たんぽは、リチウムイオン電池に電気を貯めておき、それを熱に変換する暖房器具です。
冬に毎日使う方で、使い捨てカイロではなく、よりエコな充電式カイロを使っている場合など、普段使いする方におすすめです。
モバイルバッテリーやポータブル電源、ソーラーパネルなど充電手段を確保しておきましょう。
電気ブランケット・電気毛布
エアコン、電気ストーブ、カーボン・セラミック・パネルヒーター、オイルヒーター、ファンヒーター、石油ファンヒーター、こたつ、ホットカーペットなどの暖房器具は、暖房能力が高い反面、消費電力も非常に多くなっています。
製品によって消費電力は様々ですが、おおよそ300〜1200Wの消費電力が発生します。これは容量1500Whのいわゆる大容量のポータブル電源ですら、3時間程度しか使用できません(単純計算で500Wの暖房器具を使用した場合)。
電気ブランケットや電気毛布であれば、製品によって差はありますが、消費電力はおおよそ30〜60W程度です。これは私が所有するジャクリの708Whのポータブル電源であれば、10時間以上使用できる計算です。
大災害では、ライフライン停止は長期にわたる可能性があるため、なるべく長い時間使える暖房器具を備えるのがおすすめです。
《まとめ|ライフスタイルに合わせた冬の停電対策を》
停電対策は、季節によって備えが全く異なります。また、住んでいる地域、普段使用する暖房器具など、個人や家族のライフスタイルによっても様々です。
暖を取るための様々な手段をご紹介しましたが、最も重要なことは、家族複数人でも使えるメインとなる暖房器具について考えておくことです。
豪雪地帯や極寒地域にお住まいなら石油ストーブを中心に、そこまで雪も降らず、極寒にもならない地域であればカセットガスを使う暖房器具をメインにするのがおすすめです。
その他の暖房器具は、主に個人で使用する補助的なものとなります。
防災対策は日常の延長として無理なく備え、ライフスタイルに合わせた冬の停電対策を考えましょう。