停電に備える 〜なぜ発生し、なにが起こり、どう備えるか〜

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【停電が起こる原因】

自然災害、人為災害、鳥獣害

自然災害(地震、風水害、土砂災害、落雷、大雪など)や、人為災害(火災、車両や船舶による電柱・電線の破損など)により停電は突然発生します。

自然災害の例としては、2018年9月の北海道胆振東部地震において、北海道全域で大規模停電が発生し、2019年9月の令和元年房総半島台風では、千葉県で大規模な停電が発生しました。

人為災害の例では、2006年8月に旧江戸川を航行中のクレーン船が、送電線にアームを接触させて切断し、約140万件の大規模停電が発生しました。

その他、鳥の巣など動物による電線のショートなども停電の原因となります。

電力ひっ迫、計画停電、大規模停電(ブラックアウト・全系崩壊)

日本における電力不足の背景
  • 2011年に発生した東日本大震災における東京電力 福島第一原発事故の影響
  • 発電の7割以上を占める火力発電所が、脱炭素や老朽化などを理由に減少している
  • 電力自由化や再生エネルギーの拡大による電力システムの変化の影響
  • 新型コロナウイルスや地政学的リスクの影響による、火力発電所の原料であるLNG(液化天然ガス)の価格高騰や供給不足
  • 近年頻発する季節外れの猛暑や寒波の到来による電力需要の増加

大規模な災害が発生すると、広域の発電所が停止することで電力供給が低下します。

また、近年日本では火力発電所の老朽化や減少、燃料費の高騰など様々な原因により、そもそも電力が不足しています。クーラーや暖房器具が多く使われる夏の暑い日冬の寒い日は、電力の需要が増加し、ひっ迫しやすくなります。

計画停電は、電力の需要が供給を上回ると予測されるとき、大規模な停電を回避するために行われます。計画停電は、事前に実施する日時や対象の地域などが発表されます。地域ごとに順番で停電が行われるため、「輪番停電」とも呼ばれます。

電気は基本的に貯めることができないため、発電所では必要な分の電力を細かく調整しながら発電し供給します。その調節の指標が「周波数」であり、東日本では50ヘルツ、西日本では60ヘルツになるように制御しています。

しかし電力の需給バランスが崩れると、周波数が乱れてタービンの故障やシステムの異常が起こりやすくなります。これを避けるため、発電所は電力の供給を自動的に遮断する仕組みとなっています。そして電気の遮断が連鎖的に複数の発電所で発生すると、広域で停電する「大規模停電(ブラックアウト・全系崩壊)」につながります。

電力需給ひっ迫注意報・警報

電力需給ひっ迫注意報・警報(資源エネルギー庁より発令)
  • 電力需給ひっ迫警報予備率が3%を下回ると想定される場合に発令
  • 電力需給ひっ迫注意報予備率が3〜5%になると想定される場合に発令

電力を安定供給するためには、「予備率(電力供給のゆとり)」を3%確保しておく必要があるとされています。予備率が3%を下回ると電力供給が不安定となる可能性があります。

2011年に発生した東日本大震災後の2012年に電力需給ひっ迫「警報」の運用が開始され、2022年3月22日に初めて警報が発令されました。その後、2022年5月に電力需給ひっ迫「注意報」が新設され、2022年6月26日に初めて注意報が発令されました。

「警報」は、電力の需要に対する供給のゆとり率を示す「予備率」が3%を下回ると想定される場合に発令され、「注意報」は、「予備率」が3~5%になると想定される場合に発令されます。いずれも経済産業省の資源エネルギー庁より発令されます。

【停電が起こるとどうなるか】

原因にもよりますが、停電の復旧には数時間〜数日、大きな災害では1週間〜1ヶ月以上かかる場合もあります。

2011年に発生した東日本大震災では、東京電力 福島第一原子力発電所をはじめ複数の大規模発電所が停止しました。停電発生から3日で約80%を解消し、8日で約94%が解消しましたが、その他の地域では解消までに3カ月以上かかった地域もありました。

また被災した範囲が広く復旧に時間を要したため、東京電力管内では電力需要を強制的に抑える計画停電が行われました。

バッテリーを備えていない機器が全て使えない

当たり前ですが、停電が発生すると電気が使えなくなります。家の中の電化製品だけでなく、私達の身の回りには電気で動くもので満ちあふれています。屋外においては信号機、自動ドア、スーパーやコンビニのレジ、電車、自動販売機(一部、災害対応の自販機あり)などの電源が消失し、機能しなくなります。その結果、交通はマヒし、買い物もままならない状況になります。

バッテリーを備えていない家電や電気機器は全て動かないため、想像以上に不便な生活を強いられることになります。

断水が起こることがある

停電では断水が発生する場合があります。

一軒家や低層の建物の場合、水は水道本管から水圧を利用して直接供給しているため、停電が起きても水は出ます。しかし、おおむね4階建て以上のマンションや、タワーマンションなど高層住宅の場合、水圧では水を送ることができず、ポンプを利用して上層階へ水を送っています。そのため、停電によりポンプが停止すると水が送れなくなり、断水します

飲料水の備蓄(1人1日あたり3Lが目安)が必要となる他、断水するとトイレを流す水が供給されなくなるため、トイレ対策(非常用トイレの準備)も必要となります。

お風呂のお湯を抜かずに溜めておくことも一手ですが、子供が溺水するリスク、地震の揺れによって水が溢れるリスク地震直後の場合は下水管が破損していることがあり、トイレ用水として利用するべきではない、といった点に注意が必要です。

エレベーターが使えなくなる

停電すると、エレベーターが使えなくなります。特にマンションの高層階では、階段での上り下りは非常に大変であるため、エレベーターが停止すると高層階難民となってしまいます。停電が回復するまで自宅に留まっても困らないように、日頃からの備蓄が必要となります。

明かりの確保が必要になる

停電への備えとして、LEDライトLEDランタンなど明かりの備えは必須です。電池も十分量備蓄しておきましょう。ライトやランタンは、単3電池を使用するモデルに統一しておくと便利です。

電池の備えについてはこちら 

防災に必須な「電池」の備え方 〜備える電池の種類、備える方法、どのくらい備えるか、あると便利なアダプター、液漏れについて〜

夜間に突然停電が発生すると何も見えず、場合によっては転んだり、ぶつけたり、鋭利なものを踏んだりして怪我を負う可能性もあります。コンセントに挿しておくだけで、停電時に自動で点灯する非常灯(自動点灯ライト)があれば、視界を確保することができます。

ろうそくは明るさはそれなりではあるものの燃費が良く、長時間明かりを得ることができます。ただし、火災やヤケドのリスクがあることに注意が必要であり、特に大地震発生後には余震による揺れでろうそくが倒れたりすることもあり、特に注意が必要です。

スマートフォンのバッテリーが切れると情報収集できなくなる

テレビやパソコンが使えない停電下で、スマートフォン(以下、スマホ)は情報収集ツールとして非常に重要です。しかし、バッテリーが切れると情報収集ができなくなります。スマホのバッテリー切れに備え、モバイルバッテリーやポータブル電源があると安心です。

また、どうしても電源が確保できない場合に備え、乾電池で動くラジオを備えておきましょう。

【電源確保の手段】

ポータブル電源とソーラーパネル

停電時に最も扱いやすいのが、大容量のポータブル電源です。ポータブル電源は、ポータブルバッテリーとも呼ばれ、いわゆる家庭のコンセントと同じAC(交流)出力も備えた、大容量のモバイルバッテリーのような製品です。

容量も様々で、大容量のものでは消費電力の大きな家電も稼働させることができます。防災用としては500Wh以上のものがおすすめであり、予算と保管場所が許すなら、容量は大きければ大きいほど防災向きと言えます。

また対応するソーラーパネルを接続すれば、太陽光で十分実用的な発電をすることができ、自然災害などで停電が長期間におよぶ場合でも安心です。

ポータブル電源とソーラーパネルについて詳しくはこちら ↓

防災にポータブル電源とソーラーパネル 〜停電してもベランダ発電で電源確保〜

発電機

家庭用の発電機には、ガソリン式カセットガス式があります。

ガソリン式は発電時間が4時間〜10時間と、比較的長時間の発電が可能です。しかし、ガソリンは長期保存にて劣化して使えなくなるため、燃料の長期備蓄が難しいのが難点です。

カセットガス式は燃料の長期保管が簡単ですが、発電時間が2本で1〜2時間と短時間であることが難点です。

また、発電機は大きな駆動音排気ガスが発生します。駆動中しか給電できないこと、大きな駆動音がするため近所に配慮が必要なことに注意が必要です。そのため、マンションなど集合住宅での使用は現実的ではありません。屋内での使用は一酸化炭素中毒による死亡の可能性があるため、絶対にやめましょう。

発電機は小型のエンジンを内部に搭載しているため、エンジンオイルの交換などメンテナンスが必要なことも覚えておく必要があります。

発電機が使用できる環境であれば、ポータブル電源に充電しておき、実際に電力を使うときはポータブル電源から給電するという方法が便利です。

PHEV(プラグインハイブリッド)車両とHV(ハイブリッド)車両

三菱自動車 アウトランダーPHEV (引用:三菱自動車ホームページ)

PHEV(プラグインハイブリッド)車とは、エンジンとモーターと蓄電池を備えたハイブリット車に、容量の大きな蓄電池と外部充電機能を加え、電気だけで走れる距離を伸ばした車両です。近距離なら電気だけで走行でき(おおむね60km〜80km程度)、長距離ではエンジン+電気でハイブリッド走行することができます。

日本車ではトヨタの「プリウスPHV」、三菱の「アウトランダーPHEV」「エクリプス クロスPHEV」が代表的です。輸入車の場合、PHEVモデルでも外部給電機能が備わっていないことが多いため注意が必要です。車両が外部給電機能に対応しているかを確認するとよいでしょう。

日本のPHEV車は外部給電機能があり、いわゆる家庭のAC 100Vのコンセントを接続することができます。最大1500Wまでの消費電力に対応しているため、家電などを稼働させることができます。バッテリー容量が低下した場合には自動でエンジンが始動するため、ガソリンが残っている限り発電機として機能します。

例えば、三菱の「アウトランダーPHEV」の場合、カタログ値で20,000Whの大容量リチウムイオンバッテリーを搭載しており、ガソリンが満タンであれば、一般家庭が使用する約12日分の電力量を供給可能です。専用の装置を設置することにより、車両から自宅全体へ給電することもできます。

このようにPHEV車は、ガソリンか電気どちらかがあれば走行することができ、停電時は大容量の予備電源としてだけでなく、発電機としても役立てることができます。

ちなみに普通のHV(ハイブリッド)車の場合、オプションなどでAC 1500Wの外部給電機能があるモデルもあり、災害時に予備電源+発電機として使用できますが、PHEV車と異なりバッテリー容量が少なめで、電気だけでは実用的な走行はできない点に注意が必要です。

家庭用の太陽光発電と蓄電池

自宅に太陽光発電と蓄電池システムを設置する方法もあります。平常時は日々の電気代節約にもなり、災害時は自家発電が可能なシステムです。蓄電池があれば、日中発電して余った電気を貯めて夜間も使うことができ、災害向きといえます。

デメリットとしては、設置工事・費用のハードルがあること、定期的なメンテナンスが必要なこと、ソーラーパネルの反射光が近隣へ当たるトラブル(光害)のリスクがあることが挙げられます。

設置には工事が必要となるため、新築で家を建てる場合、もしくは家を改修する場合に検討してみるとよいでしょう。

【停電が発生したら、復旧後に火災や怪我の原因となる電化製品のコンセントを抜く】

いざ停電が発生した場合、停電が解消した時の火災(通電火災)や事故を予防するため、アイロン、ドライヤー、暖房器具、ミキサー、電動ドリルなどの電気プラグを抜くようにする、といった基本的なことも忘れないようにしましょう。

また、大きな地震が発生し津波から避難するなど、自宅から離れて避難が必要な場合、停電の有無にかかわらずブレーカーを落としてから家を出ることも重要です。

【冷蔵庫の停電対策】

停電すると、冷蔵庫の保冷可能な時間は約2〜3時間と言われています。冷凍庫の場合、隙間なく詰めて扉を開けなければ、半日〜1日程度は冷凍状態を維持できます。停電はいつ復旧するか分からないため、できればなるべく長時間の保冷・冷凍が望まれます。

普段から心がけておきたい冷蔵庫の備えと、実際に停電が発生した時にどうすれば保冷を維持できるかを考える必要があります。

普段からできる冷蔵庫の備え
  • 保冷剤を凍らせておく。
  • ペットボトルのお茶や水を凍らせておく。(水分は凍らせると膨張してボトル破損の原因となるため、冷凍対応のペットボトルを使うか、普通のペットボトルの場合は中身を7〜8割にしてボトルを立てて凍らせる)
  • ごはんをラップに包んで小分けにし、凍らせておく。(保冷剤がわりになる)
  • 冷凍庫内の食材は、なるべく隙間なくぴっちりと詰めておくと冷凍効率が良くなる。
  • 逆に冷蔵庫内は詰め込み過ぎず7割程度を目安とし、停電時に保冷剤や冷凍食品を隙間に入れられるようにしておく。
停電時の冷蔵庫の保冷対策
  • とにかくなるべく冷蔵庫・冷凍庫の扉は開けないようにする。
  • 保冷剤・凍らせたペットボトル・冷凍食品を冷蔵庫の食材の隙間に移す。(冷凍食品は食べる順番も考慮して冷蔵庫へ移す)
  • 保冷剤などはなるべく上の段に入れる。(冷気は上から下に降りてくるため)
  • 傷みやすい食材から早めに調理・消費する。(カセットコンロがあれば停電でも調理可能)

この他、野菜や果物など必ずしも冷蔵しておかなくても良い食材は、外気温が高くなければ直射日光が当たらない、風通しのよい室外に置いておくなどの工夫もできます。

計画停電など、短時間の停電が予想される場合は、大容量のポータブル電源があれば冷蔵庫を稼働させることもできます。冷蔵庫の消費電力は150〜500W程度です。1000Whの容量のポータブル電源であれば、単純計算上は2〜6時間程度の稼働が可能です。

【停電は必ず発生するという心構えをもつ】

日本において電力不足は深刻化しており、電力需給ひっ迫警報や注意報が出され、節電が要請されることが近年増えてきています。節電も重要ですが、節電だけを心がけるのではなく、災害大国日本において度々発生する停電に対しても備えなければなりません

停電は必ず起こるという心構えを持ち、備えておくことが非常に重要です。

の停電対策についてはこちら ↓

夏の停電対策 〜電気を「使わない」対策と「使う」対策で、熱中症を予防する〜

の停電対策についてはこちら ↓

冬の停電対策 〜停電時の寒さ対策|燃料・電気を「使わない」対策と「使う」対策〜