大地震によるエレベーター閉じ込め問題 〜地震時管制運転装置とその限界|閉じ込められない対策|閉じ込められた時の対策〜

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大地震が発生すると、大きな問題の一つになるのがエレベーターの閉じ込めです。近年、特に都市部ではタワーマンションやオフィスビスの建設が進んでおり、自宅だけでなく外出先でもエレベーターに乗る機会はより増えていると言えます。

大きな災害では、閉じ込めは長時間になる可能性があり、心身の不調、トイレ問題、飲料水・食料の問題が発生します。

近年のエレベーターには閉じ込めを防止する安全装置が備わっていますが、どのような機序で作動するのか、機能の限界はあるのかを知っておくことは重要です。また個人ができる閉じ込め防止対策や、閉じ込められた時の対策についても紹介します。

《大地震によるエレベーター閉じ込めは度々発生している》

2011年東日本大震災では、全国20都道県において257件のエレベーター閉じ込めが発生しました(日本エレベーター協会調べ)。

2018年6月大阪府北部地震では、6万6000台のエレベーターが停止し、閉じ込めは346件発生しています。救助されるまでの時間は、平均80分で最大5時間以上かかった場合もありました。

2021年10月に首都圏で発生した、関東南部で震度5強を観測した地震(千葉県北西部地震)では、7万5738台のエレベーターが停止し、28件の閉じ込めが発生しています。

このように規模の大きな地震では、エレベーター閉じ込めが度々発生しています。また、救助されるまでに長時間を要するケースも少なからずみられています。

首都直下地震や南海トラフ巨大地震で想定されているエレベーター閉じ込め

2022年5月に見直された、東京都防災会議による首都直下地震の被害想定では、東京都では冬の夕方に都心南部直下地震が発生した場合、推計される都内のエレベーター約166,000台のうち、22,426台において閉じ込めが発生すると想定されており、2013年(平成25年)に公表された、政府の中央防災会議による首都直下地震の被害予想では、最大約17,000人がエレベーターに閉じ込められると想定されています。

また、2013年(平成25年)に公表された、政府の中央防災会議による南海トラフ巨大地震の被害予想では、最大約23,000人がエレベーターに閉じ込められると推定されています。

近い将来、必ず発生すると言われているこれらの巨大地震は、いずれもこれまでの地震をはるかに上回るエレベーター閉じ込めが発生すると見込まれています。

首都直下地震〜いつ起きてもおかしくない、首都を揺るがす大地震〜

《エレベーターの地震対策》

閉じ込めを防止する「地震時管制運転装置」とは?

2009年9月に建築基準法が改正され、それ以降に新設するエレベーターには、「地震時管制運転装置」という閉じ込めを防止する安全機能の設置が義務付けられています。

地震が発生すると、秒速約7kmで伝わってくるP波(初期微動)がまず到達し、その後に秒速4kmで伝わってくる強い揺れであるS波(本震)が到達します。

地震のP波とS波について (引用:気象庁ホームページ)

地震の基本ついてはこちら ↓

地震とは 〜地震大国日本に生きる私達が知っておきたい基本知識〜

地震時管制運動装置は、P波(初期微動)を感知すると、最寄りの階まで自動で運転・着床し、扉を開いて中の人を脱出させて閉じ込めを防止する機能です。おおよそ震度4程度以上の地震で作動するようになっています。旧式のエレベーターでは、低震度のS波を検知するものもあります。また、気象庁が発表する緊急地震速報を併用するシステムもあります。

バッテリー装置も積んでいるため、万が一停電してもバッテリーに電力を切り替え、最寄り階に停止してくれます。

停止した後は、最寄り階で扉を開いた後、しばらくして扉が閉まります。閉まった扉は、エレベーターの中から開くことはできるため、エレベーター内に閉じ込められることはありませんが、外からは開けられないようになっています。

その後、S波(本震)の揺れが小さい場合は自動的に運転が再開します。揺れが大きい場合は、損傷の状況が分からないため運転を休止し、技術員による点検・復旧作業が必要となります。

休止したエレベーターを自動診断し、安全性に問題なければ自動で仮復旧するシステムを搭載しているエレベーターもありますが、一定以上の極めて大きな地震の場合、仮復旧システムは働かず、技術員による直接の点検・復旧作業が必要になります。

大きな地震の後は余震の可能性があるため、状況が落ち着くまではエレベーターを絶対に使わないようにしましょう。

まとめ|地震時管制運動装置について
  1. 地震の初期微動であるP波を検知する。気象庁発表の緊急地震速報に連動するものもある。
  2. 検知すると、速やかに最寄りの階まで自動運転する。
  3. 最寄り階で扉を開き、中の人を脱出させる。
  4. 一定時間後に自動で扉が閉まり、中からは開けられるが、外からは開かないようになる。
  5. ただし、一定以上の極めて強い揺れを検知した場合、最寄り階へ向けて運転中でも停止する。
地震時管制運転について
YouTubeより 京都エレベーター「エレベーターで地震が起きたらどうしたらいいの?」

古いエレベーターの場合は?

2009年9月以前の古いエレベーターの場合は、「地震感知器」しかついていないものや、地震感知器すらついていないエレベーターもあります。

「地震感知器」しかないエレベーターでは、震度4程度以上の揺れに対して感知器が作動し、カゴを緊急停止させたり、最寄り階に停止して中の人を脱出させます。最寄りの階に停止できなかったり、扉が開かない場合は、閉じ込めとなります。地震時管制運転装置と違い、バッテリーが備わっていないため、停電が起こった場合もそのまま停止し閉じ込められてしまいます。

地震検知器が備わっていないエレベーターは、大きな揺れでも自動で停止せず、装置等が故障・損傷しても運転を続けるため危険とされています。

地震時管制運転装置が備わっていても閉じ込められる場合がある

地震時管制運転装置は万能ではありません。通常のエレベーターは、P波を検知して管制運転を開始し、最寄りの階に到着するまでに最大6秒程度時間がかかります。また、一定以上の極めて強い揺れを検知した場合は、管制運転を行わずその場で運転を停止し、技術員による点検が行われるまで運転を再開しません。

例えば首都直下地震のように震源が近い場合、P波(初期微動)と強いS波(本震)がほぼ同時に検知されると、最寄りの階に到着する前に強い揺れを検知して緊急停止してしまいます。最寄り階へ到着せずに停止するため、そのまま閉じ込められ、技術員が直接安全確認を行うまで動きません。

また、2009年以降に設置されたエレベーターには、扉が開いた状態でカゴが動かないようにする、「戸開走行保護装置」が備わっており、この扉の開放を検知する機器が、地震により誤作動して運転停止し、閉じ込められるケースもあります。

2018年6月に発生した大阪府北部地震では、346件のエレベーター閉じ込めが発生し、そのうち「地震時管制運転装置」が備わっていたエレベーターは139件含まれていました(国土交通省資料より)。

《閉じ込めのリスクを減らすためには?》

どんなに新しいエレベーターでも、安全装置には限界があると考え、建物やエレベーター装置の損壊など様々な原因も影響し、閉じ込められる危険があると認識するべきです。

最大にして最強の対策とは、なるべくエレベーター(特に古いもの)に乗らないことです。普段からなるべく階段を使う習慣をつけておくことが、エレベーター閉じ込め防止の最も効果的な対策になると言えます。また階段を使うことで、災害時に役立つ体力作りにもなります。

とはいえ、現代社会においてエレベーターに全く乗らないことは困難であり、閉じ込められた時の対応をしっかり知っておくことは重要です。

地震が発生した場合、乗っているエレベーターに地震時管制運転装置が備わっているかどうかを瞬時に判断することはできません。そのためどんなエレベーターに乗っていたとしても、揺れを感じたら全ての階のボタンを押しましょう。エレベーターが運よくどこかの階に停まり、扉が開いたら速やかに脱出し、その後はエレベーターを使わないようにします。

まとめ|閉じ込められないためのポイント
  • どんなに新しいエレベーターであっても、閉じ込めが発生する可能性があると認識する。
  • そもそもなるべくエレベーターを使わないようにする(特に、古いエレベーター)。
  • 閉じ込めを想定し、混んでいるエレベーターにはなるべく乗らないようにする。
  • 揺れを感じたら、すぐに全ての階のボタンを押す。
  • 最寄り階に停止して扉が開いたら速やかに脱出する。
  • 余震の可能性あり、その後はエレベーターを絶対使用しない。

《大地震で閉じ込め発生!その時、エレベーターの安全性は?》

先のように、どんなに最新システムのエレベーターであっても、また揺れた時に全ての階のボタンが押せたとしても、地震の程度や震源地からの距離によっては閉じ込めが発生します。

万が一大きな地震が発生して閉じ込められると、カゴが落下したり、真っ暗になったり、酸素が薄くなって酸欠になるのでは?と不安になるかもしれません。しかし、こういった事態が発生する確率は極めて低く、エレベーターはかなり安全に設計されています。

カゴが落ちることはまずない

カゴが落下する可能性は極めて低いと言えます。エレベーターは必ず3本以上のロープが備わっており、万が一複数本切れて1本だけになっても、問題なくカゴを支えられるように設計されています。

それでもロープが全て切れてしまった場合、エレベーター自体の重さを利用してガイドレールを掴む、非常止め装置により減速・停止します。非常止め装置は複数備わっています。

それでもなお、予期せぬ原因により落下しても、最下部には落下衝撃緩衝装置があり、落下の衝撃を吸収するようになっており、何重にも安全装置が設けられています。

地震でカゴが落ちる心配はまずありません。

停電しても非常灯が点灯する

停電が発生しても、バッテリーにより直ちに非常灯が点灯します。突然真っ暗にはなりません。法令では最低30分以上点灯するように定められています。

酸欠にはならない

エレベーターには十分な換気口や隙間があるため、酸欠になることはありません。閉じ込めによる閉塞感から、息苦しさを感じる場合もありますが、落ち着いて平常心を保つことが重要です。

このように、エレベーターに閉じ込められても、すぐに命に直結する危険性は非常に低いため、落ち着いて救助を待つようにしましょう。

《閉じ込められたらどうするか》

閉じ込められた場合は、非常用ボタンを長押しして管理センターや保守センターへ連絡を試みましょう。

災害時は多数の救助要請が集中し、輻輳(ふくそう)により回線が繋がらない可能性もあります。繋がらなければ、スマートフォンで管理会社に連絡を試みましょう。連絡先はエレベーター内のいずれかに掲示されています。また、警察や消防へ救助を求めましょう。TwitterなどSNSを利用する手もあります。

とにかく、あらゆる手段で管理会社や警察、消防など外部へ連絡するようにしましょう。

叫んだり大声をあげて助けを求めても、体力を消耗するばかりでなかなか外には届きません。ホイッスルがあれば吹いたり、硬いものでエレベーターを叩いて音を出し、外部に存在を知らせるのも一手です。

決して多いとは言えませんが、非常用グッズが備え付けられているエレベーターもあります。主にライト、非常用トイレ、飲料水などが入っているため、閉じ込めが長時間になる場合は活用します。

救助を待つ間は、なるべく楽な姿勢を取り体力を温存しましょう。いざ閉じ込められた時に、狭いエレベーター内で楽な姿勢を取れるようにするためには、平時から混んでいるエレベータには乗らないという心構えも重要です。

まとめ|閉じ込められたときの対応
  • 非常用ボタンを長押しする。
  • 繋がらなければ、スマートフォンで管理会社、警察、消防に連絡をする。
  • それでも繋がらなければ、ホイッスルを吹いたり、硬いもので叩いて外の人に存在を知らせる。
  • 非常用グッズが備わっていれば、活用する。
  • 救助を待つ間は楽な姿勢で体力を温存する。

《閉じ込められてやってはいけないこと》

パニックになる

突然のエレベーター停止の衝撃、閉塞感、聞き慣れない警報音や機械音声、場合によっては非常灯に切り替わって薄暗くなったりすると、人は恐怖感からパニックになることがあります。厄介なことに、パニックは他の同乗者にも連鎖します。

パニックは無駄に体力と精神力を消耗するだけなので、一番避けるべき状況です。

エレベーターに閉じ込められた時の対応を知っておくことで、パニックを回避することができます。心をなるべく落ち着かせるようにしましょう。

無理やりドアを開ける

映画のように扉を開けて脱出するシーンがありますが、無理矢理扉を開けることは非常に危険であり、絶対にやってはいけません。無理に開けると転落したり挟まれることで、重症を負ったり死亡する危険性があります。また中途半端に安全装置が働いて、かえって救助に支障をきたす場合があります。

天井からの脱出を試みる

これまた映画のように、天井の脱出口(点検口)から脱出するシーンがありますが、日本のエレベーターはそもそも天井に点検口がない場合もあり、あっても外側からロックがかかっているため、内部からは開けることができません。

万が一脱出できたとしても、突然エレベーターが動き出して挟まれる可能性もあり、非常に危険です。

YouTubeより
京都エレベーター「エレベーターがもし止まったらどうしたらいいの??」
YouTubeより
京都エレベーター「映画みたいに、エレベーターから脱出できるのか? エレベーター屋が試してみた」

《まとめ|大地震では、閉じ込めは長期間になると心得ておくべき》

エレベーターに閉じ込められた場合、救助を待つしかありません。一番問題となるのが、長時間の閉じ込めです。閉鎖空間に長時間閉じ込められることにより、心身の不調トイレ問題飲料水や食料問題が生じます。

大規模災害時は救助要請が殺到し、管理会社の技術員、警察、消防はすぐに救助に来れません。警察や消防は、より被害の大きい救助を優先させます。道路状況も混乱するため、技術員が来てくれるまでにもかなり時間がかかります。

最近では、カゴ内に非常用ボックスを備えたエレベーターも増えてきましたが、まだまだ十分とは言えない状況です。個人ができる対策としては、閉じ込めに限りませんが、常日頃から防災ポーチをカバンに入れて持ち歩くことになります。

エレベーターは閉じ込められてもすぐに命を落とすことはまずありません。正しい知識を持ち、心を落ち着かせ、体力を温存しながら救助を待つしかないということを知っておきましょう。

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