緊急地震速報とは 〜身を守る優れたシステムであり、その限界を知っておく必要もある〜

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《緊急地震速報とは?》

全国各地にある地震計、震度計、地震観測網により地震発生を観測・解析し、大きな揺れが到達する数秒〜数十秒前に、到達時刻や予想震度を可能な限り素早く伝えるための、気象庁より発表される予報・警報システムです。

平成25年8月30日から緊急地震速報のうち、震度6弱以上が予想される場合を「特別警報(地震動特別警報)」に位置付けられています。ただし現状では速報の精度や技術的限界があることから、警報と特別警報は区別されずに発表されます。

緊急地震速報には、震度4以上の強い揺れが予想される地域を伝える「一般向け」(地震動警報・地震動特別警報)と、発表基準が低く誤報の可能性も増えるものの、各地の震度や揺れの到達時間などが細かく分かる「高度利用者向け」(地震動予報)の2種類があります。通常、我々がスマートフォンやテレビなどから受け取る緊急地震速報は「一般向け」になります。

地震に限らず、「警報」を発表できるのは気象庁のみと法律で規定されています。これは災害時あるいは災害が発生する恐れがある時に、防災対応に混乱が生じないようにするためです。

「予報」については、気象庁以外の者が業務を行う場合は、気象庁長官の許可を受ける必要があります。これは予報業務が国民生活や企業活動等と深く関連しているため、気象業務法で定められています。

緊急地震速報は気象庁が発表し、それを受けたテレビ(民放)、ラジオ、スマートフォンの各事業者が独自の基準により発表します。NHKは公共放送のため、全国で緊急地震速報が放送されます。

《緊急地震速報のしくみ》

 地震が発生すると、震源から揺れが地震波として地面を伝わります。地震波には秒速約7kmで伝わってくるP波(Primary Wave「最初の波」を意味する)と秒速4kmで伝わってくるS波(Secondary Wave「2番目の波」を意味する)があります。

強い揺れをもたらすのはS波ですが、P波の方がS波より速く伝わってきます。さらに有線や無線の電気信号は、地震波よりさらに速い光の速度(秒速約30万km)で伝わります。緊急地震速報はこの2種類の地震波と電気信号の速度差を利用しています。

S波より先に伝わるP波を地震計などで検知し、有線・無線の電気信号を利用して気象庁のコンピューターへ送信、直ちに解析し瞬時に警報を発表し、再度電気信号を利用して各関係機関、テレビやラジオ、スマートフォンに情報を伝え、大きな揺れであるS波が伝わってくる前に警報を出すシステムになっています。

緊急地震速報の仕組み (出典:気象庁ホームページ)

また警報は原則1回の発表ですが、地震を検知してからも各地の観測地点からの情報をごく短時間に繰り返し計算・解析を行うため、時間経過とともに予測震度が変わることがあり、未発表地域で基準を超えれば「続報」として発表されます。

緊急地震速報には、全国約690箇所の気象庁の地震計・震度計に加え、国立研究開発法人 防災科学技術研究所の地震観測網(全国約1,000箇所)が利用されています。

令和2年3月24日現在での緊急地震速報に活用している観測点 (出典:気象庁ホームページ)

《緊急地震速報の発表内容と発表条件》

緊急地震速報(一般向け)の発表条件
  • 地震波が2点以上の地震観測点で観測され、最大震度が5弱以上と予想された場合に予測震度4以上の地域に対して発表。
  • さらなる解析により、震度3以下と予測されていた地域が震度5弱以上と予測された場合に、続報を発表。続報では、新たに震度5弱以上および震度4が予測された地域を発表する

※震度5弱以上である理由は、それが顕著な被害が生じ始める震度であるためです。

緊急地震速報(一般向け)の発表内容
  • 発生時刻
  • 発生場所(震源)の推定値
  • 地震発生場所の震央地名
  • 震度5弱以上が予想される地域および、震度4が予想される地域名(全国を約200地域に分割したもの)。
  • 予測震度には多少の誤差を伴うものであること、またできるだけ続報を避けるため、予測震度の値ではなく「強い揺れ」と表現されます。
高度利用者向けの緊急地震速報(予報)の発表条件
  • 地震観測点において100ガル以上の強い加速度が観測された場合。
  • 地震の予測規模がマグニチュード3.5以上の場合。
  • 最大予測震度が震度3以上の場合

※高度利用者向けでは、速報性と見逃しを避けることが優先されるため、一定の割合で誤報が生じやすくなっています。落雷などによるノイズが誤報の原因となる場合もあり、誤報と判断された場合はキャンセル報が発表されます。

《スマートフォンの緊急地震速報が鳴る条件》

携帯電話やスマートフォンでは気象庁から緊急地震速報が発表された場合、各携帯電話会社(通信キャリア)はエリアメールや緊急速報メールを、発せられた緊急地震速報の該当エリア内に存在する端末に対して、キャリア回線(電波)を通じて一斉に配信します。ここで注意が必要なのは、Wi-Fi経由では基本的にエリアメールや緊急速報メールは受信できません(ただし、Yahoo防災アプリなどの防災系アプリがあればWi-Fi経由とGPSから情報を得ることができます)。

スマートフォン(携帯電話含む)で緊急地震速報を受信できる条件
  • 緊急地震速報が発表される地震が発生したとき(最大震度5弱以上と予想される地震)
  • 最大震度4以上が予想される地域のキャリア回線(電波)に繋がっている時(圏外や機内モードでは受信できない)。
  • 最大震度4以上が予想される地域内に自身がいても、スマートフォンがそれ以外の地域のキャリア回線に繋がっている場合は通知されないこともある(県境など地域の境に近い場所では起こりうる)。
  • キャリア回線(電波)に繋がっていること。Wi-Fiのみでは基本的に受信できない
  • スマートフォンの設定で、緊急速報を受信・通知する設定になっている場合。

Wi-Fiのみでも緊急地震速報が受信できるように、「Yahoo! 防災アプリ」などの防災系アプリを入れておくとより安心です。

《緊急地震速報の安全活用》

緊急地震速報は私達の生活の色々な場所で活用されています。

例えば建物のエレベーターでは、地震発生を検知し最寄りの階に停止させるなどの制御に利用されています。また新幹線を含む鉄道では、緊急地震速報を受けて車両を減速させたりなど制御し、横転や脱線を防ぐ活用がされています。そのほかにも、工場、事業所、学校、病院、商業施設、自治体などでも活用されており、私達の生活に密着しています。

《緊急地震速報の限界》

緊急地震速報は、P波とS波、そして電気通信(光速)の速度差を利用して発表するシステムです。緊急地震速報から強い揺れの到達までの時間は、数秒から長くても数十秒程度と極めて短い場合がほとんどです。

また震源が近い場合、強い揺れに間に合わない可能性が高くなります。近い将来発生が予想されている首都直下地震など内陸型地震では、震源が比較的浅い(=近い)ため、緊急地震速報は強い揺れが到達する前に間に合わないと予想されます。

限られた観測点での短時間の観測データから地震の規模、震源、各地の震度を予想するため、予想震度は1階級前後の誤差がある場合があり、精度が十分でない場合があります。またその誤差により、緊急地震速報の発表基準を満たさず、実際には強い揺れが起きても緊急地震速報が発表されない場合もあります。

緊急地震速報の限界
  • 緊急地震速報発表から大きな揺れの到達までは数秒からせいぜい数十秒しかない。
  • 震源が近い地震では間に合わない場合がある。
  • 短時間での観測、解析のため、精度に誤差がある
  • 誤差により発表基準を満たさず、強い揺れが起きても緊急地震速報自体が発表されないことがある

地震大国日本において洗練され、人類が自然災害に抗うための非常に優秀で便利な緊急地震速報ではありますが、あくまで相手は対自然災害であることを忘れてはいけません。その能力に限界があることを知り、過信しないようにすることが重要です。

《2011年の東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)において緊急地震速報と津波警報はどうであったか》

2011年3月11日に発生した未曾有の大災害である「東日本大震災」を引き起こした地震「東北地方太平洋沖地震(マグニチュード9.0)」は、宮城県 牡鹿半島の東南東130km付近の三陸沖で発生しました。陸までは距離があったため、大きな揺れが到達する前に緊急地震速報が間に合った事例です。

Youtubeでは、東北地方太平洋沖地震発生直後から津波到達の映像を見ることができます(次項)。見るのが辛い方も多くいらっしゃると思いますので、そういった方は試聴を控えてください。

東北地方太平洋沖地震発生直後のNHK放送

2011年3月11日 東北地方太平洋沖地震発生時のNHK放送(※注意 緊急地震速報音と後半で津波の映像が含まれます)

国会中継中に緊急地震速報が発表

NHKでは国会中継中に緊急地震速報が発表されました。国会議事堂内は携帯電話の持ち込みが禁止されており、議員達に緊急地震速報が伝わることなく審議が継続しています。国のトップが緊急速報を速やかに受け取れていないという異様な光景とも言えます。緊急地震速報が発せられた後、東京でも揺れ始めたため中継を中断し映像がスタジオに切り替わりました。

大津波警報が発表

NHKの東京スタジオが揺れ始めた中で「震度7 宮城県北部」と速報が出ています。揺れの最中でもこのような正確な情報が出るということは世界でも類を見ません。

その後、速やかに大津波警報が出ています。ここでは速報が地震の規模を小さく見積もったため、津波の予想は3〜6mと低い情報になっています。実際よりも低く予想したことにより、多くの人が逃げ遅れた原因になった可能性が指摘されましたが、地震発生直後に迅速な津波警報が出るということ自体が、日本の地震や津波に対するシステムが非常に優れていることを示しています。

また同時に、津波予想の難しさや限界、そして課題があるということも我々は知っておくべきことです。

ロボットカメラが岩手県 釜石港の津波到着を捉える

「ロボットカメラ」は通称「お天気カメラ」とも呼ばれ、全国各地に設置してあり遠隔操作が可能で、そもそもは災害をいち早くキャッチできるように設置してあります。15時15分頃、NHKのロボットカメラが岩手県 釜石港の津波到達を最初に伝えました。潮位が急速に上昇し、港に流れ込む津波の様子をリアルタイムにとらえました。

その後、巨大な津波は東北地方の太平洋沿岸各地を襲い、多くの死者・行方不明者を出す大惨事となりました。

被災地に津波警報は届いたか、そして東日本大震災の教訓

規模を低く見積もってしまったとは言え、気象庁は実に素早く緊急地震速報とそれに続いて津波警報を発表しました。しかし、実際には被災地にいた多くの人にはこの警報が届いていませんでした。実は地震発生直後、被災地では発電所が揺れにより緊急停止したことで停電が発生していました。つまり、テレビで流れていた津波警報や津波情報が被災者へ届かない状況が多くあったということです。

2011年当時のスマートフォンの普及率は30%程度とされています。そもそも当時の携帯電話は緊急地震速報は配信されても、津波警報は配信されていませんでした。東日本大震災を受け、各携帯電話会社は2012年から津波警報も配信するようになりました。

当時被災地において津波警報を知る主な手段としては、機能していた一部の防災行政無線の放送か、乾電池式ラジオや車のラジオやテレビぐらいしかなかったということになります。乾電池式ラジオは、個人が持ち運べる最も原始的かつ、電池さえあればほぼ確実に情報収集できるツールと言えます。

ラジオ 〜最もアナログだからこそ、災害時の最強な情報収集ツール〜

東日本大震災の教訓の一つに、自然災害の予想には限界があることが挙げられます。想定外の巨大地震であったこと、地震の揺れや停電により観測施設などが被害を受けたこと、その後の活発な余震活動により緊急地震速報の予測震度に大きな誤差が出るなど適切な内容で発表できない事例が多発しました。これを受け、気象庁では観測施設やシステムなどの改良を行っています。ですが、現在の技術ではまだまだ予測に限界があることには変わりありません。

教訓の二つ目としては、情報は災害発生後の混乱状態では伝わってこない可能性があることが挙げられます。地震や津波情報の迅速な発表はなされましたが、その情報伝達に問題と課題があることが明らかになりました。幸い、現在では緊急速報や警報はスマートフォンなどでより得やすくなっています。ですが、それが確実とは言い切れないのが大災害です。

いずれも「想定外」は必ず存在するという心構えを持つ必要があります。東日本大震災の教訓を元に、自らが命を守る行動についてよく考える必要があります。

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