日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震 〜発生が切迫している、最大推計死者数19万9000人の巨大地震〜

Pocket

《日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震》

内閣府 日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震対策の概要資料より引用

2021年12月21日に内閣府より、「日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震」が発生した場合の被害想定が発表されました。東日本大震災を教訓にし、最新の科学的知見に基づいて、最大クラスの地震で想定しています。

これまでの津波堆積物の調査から、この海域において17世紀には巨大地震と大規模の津波が発生したと考えられ、また頻度としては約300年〜約400年の間隔で発生したと考えられています。前回からすでに400年程度経過していることから、巨大地震の発生が切迫している可能性が高いとしています。

30年以内の発生確率は?

日本海溝マグニチュード(M)9.0程度の地震が30年以内に発生する可能性はほぼ0%M7.9程度の地震が発生する可能性は10〜30%とされています。

同じく、千島海溝M8.8以上の地震が30年以内に発生する可能性は7〜40%M7.8〜8.5の地震が発生する可能性は80%と評価されています(いずれも2022年1月1日時点での政府の地震調査研究推進本部による公表値)。

M8〜9クラスの南海トラフ巨大地震の30年以内の発生確率が70〜80%、首都直下地震の発生確率が70%であることを考えると、規模にもよりますが決して低い確率ではなく、むしろより発生が切迫しているとも言えます。

日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震の30年以内の発生確率
日本海溝発生確率
 M9.0程度 ほぼ0%
 M7.9程度 10〜30%
千島海溝
 M8.8以上 7〜90%
 M7.8〜8.5  80%

《マグニチュード9クラスの2種類の地震と、3種類の発生時期・時間のパターンを想定》

内閣府「日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震の解説ページ(https://www.bousai.go.jp/jishin/nihonkaiko_chishima/kaisetsu/index2.html)」より引用

2つの地震のモデル(日本海溝モデル千島海溝モデル)について検証が行われました。

①「日本海溝モデル」:日本海溝のうち、北海道の南〜岩手県沖合にかけての領域で、マグニチュード9.1の地震が発生したモデル

②「千島海溝モデル」:北海道の沖合にある千島海溝でマグニチュード9.3の地震が発生したモデル

内閣府「日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震の解説ページ(https://www.bousai.go.jp/jishin/nihonkaiko_chishima/kaisetsu/index2.html)」より引用

また、地震の発生時期・発生時間帯を3つのパターンで検証しており、特に「冬・深夜」に地震が発生した場合、暗闇や積雪・凍結により避難速度が低下するため、避難が遅れ、津波による被害が最も多くなると想定しています。

東日本大震災を教訓にし、積雪・寒冷地が被災した場合、津波から逃れても低体温症で死亡リスクが上がる「低体温症要対処者数」という新しい指標を作成していることも重要なポイントです。

《地震防災対策推進地域・津波避難対策特別強化地域について》

大きな揺れや、一定以上の津波被害が想定される市町村、過去に大きな被害を受けた地域など、指定基準により地震防災対策推進地域・津内避難対策特別強化地域が指定されています。

内閣府「日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震対策」資料より引用
内閣府「日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震対策」資料より引用

《津波》

内閣府「日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震の解説ページ(https://www.bousai.go.jp/jishin/nihonkaiko_chishima/kaisetsu/index2.html)」より引用

①日本海溝モデル:日本海溝沿いでは、東北や北海道の太平洋側各地で10mを超える津波が襲い、福島県南相馬市で19m、宮城県気仙沼市で16m、岩手県宮古市で30m、青森県八戸市で27mに達すると推定されています。

②千島海溝モデル:北海道東部を中心に20mを超える津波が襲い、北海道えりも町や釧路町で28mに達すると推定されています。

《推計死者数》

①日本海溝モデル:約6000人〜約19万9000人

②千島海溝モデル:約2万2000人〜約10万人

いずれも死者数の大半は津波による被害であり、積雪などで避難速度が遅い場合や、避難意識が低い場合はさらに増えるとされます。

《負傷者数》

①日本海溝モデル:約3300人〜約2万2000人

②千島海溝モデル:約2600人〜約1万人

《津波被害に伴う要救助者数、低体温症要対処者数》

①日本海溝モデル:要救助者数:約6万6000人〜約6万9000人、低体温要対処者数:約4万2000人

②千島海溝モデル:要救助者数:約3万2000人〜約4万1000人、低体温要対処者数:約2万2000人

《総避難者数(津波から1日後)》

①日本海溝モデル:約90万1000人

②千島海溝モデル:約48万7000人

《建物被害(全壊棟数)》

①日本海溝モデル:約22万棟

②千島海溝モデル:約8万1000棟〜約8万4000棟

建物被害は主に津波によるものです。冬季の場合は積雪荷重により、夕方の時間帯の場合は出火率が高くなることより、全壊棟数は増大します。

《経済的被害》

①日本海溝モデル:約31.3兆円

②千島海溝モデル:約16.7兆円

《「北海道・三陸沖後発地震注意情報」について》

内閣府「北海道・三陸沖後発地震注意情報」ポスター・チラシを引用
内閣府「北海道・三陸沖後発地震注意情報」ポスター・チラシを引用

日本海溝・千島海溝沿いでは、マグニチュード(M)7.0以上の地震が発生した場合、その後1週間以内にその周辺でさらに大きなM8クラス以上の後発地震が発生する可能性があるとし、2022年12月16日より「北海道・三陸沖後発地震注意報」が運用開始になりました。

対象地域は、震度6弱以上の揺れや3m以上の津波が予想される地域、その他防災対応をとるべきと考えられる地域であり、北海道から千葉県までの7道県182市町村が対象です。

これまで実際に後発地震があった地震が2例確認されており、2011年の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災を引き起こした地震)では、M7.3の地震が発生した2日後にM9.0の地震が発生しており、1963年(昭和38年)の択捉島南東沖における地震では、M7.0の地震が発生した18時間後にM8.5の後発地震が発生しています。

北海道の太平洋沖から東北地方の三陸沖の巨大地震の想定震源域、及びその領域に影響を与える外側のエリアでM7.0以上の地震が発生し、情報発信の条件を満たす場合に、地震発生後2時間以内程度を目安に情報が発信されます。情報の発信は1週間に渡って行われ、備え・防災対策の見直し、後発地震が発生した場合にすぐに避難できる体制の準備が呼びかけられます。

情報発信時は、社会経済活動を継続した上で必要な防災対応を実施し、国や自治体から事前避難を呼びかけることはされません

過去100年間の世界の事例を検討すると、M7.0以上の地震発生後7日以内にM8クラス以上の後発地震が発生する確率は、 100回に1回程度と推定されています。

100回に1回程度の確率は、確実に発生するとは言えない極めて不確実性が高い情報ではありますが、情報発信時に地震が起こらなかったとしても、「空振り」と捉えるのではなく、地震への備えの徹底や防災意識の向上につなげる予行演習としての 「素振り」と捉えることが強調されています。

《甚大な被害想定を踏まえて、悲観するのではなく、防災意識の向上が重要》

日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震の被害想定を踏まえ、巨大地震・津波が発生した際に起こりうる事象を、悲観することなく冷静に受け止め「正しく恐れる」ことが重要です。政府は迅速な避難、避難意識の向上、施設(津波避難タワーなど)や建物の整備などを進めれば、死者数を8割減少できると推計しています。

一方で、津波避難ビルや避難タワー建設など設備の整備には、財政面などまだまだハードルが高く、進んでいないという現実もあります。これからの国、自治体、そして実際に住んでいる住人自身の防災に対する姿勢が問われていきます。

各々がリスクを知ること、我が事と認識して平時から地震への備えを徹底し、防災意識や避難意識を向上させることが、被害を少しでも減らす手段であるといえます。

地震が起きたらどう身を守るか? 〜事前の備え、状況別の行動、心構えについて〜