津波とは 〜全てをのみこむ、巨大な海水の壁〜

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《津波とは》

津波の「津」は船着場など港を意味するそうです。「津波」とは港に押し寄せる大きな波を意味します。

津波は主に、海底のプレート境界で発生する地震に伴い、海底地盤が隆起・沈降したり、海底の地滑りなどが発生することにより、海水が上下に変動することで引き起こされます。その他の原因としては、海底火山の爆発や、海岸付近の火山の大規模な崩落(山体崩壊など)により、大量の土砂が海に流れ込むことによって引き起こされることもあります。

出典:「津波が発生するしくみ」(地震調査研究推進本部) 

2022年1月15日に南太平洋のトンガで噴火した、フンガトンガ・フンガハアパイ海底火山では、衛星でもはっきり確認できる程の衝撃波(空振)により、海面に強い変動が発生し、津波が発生したのではと推測されています。(ただし、この記事を記載している時点で気象庁では、この潮位変化が津波であるかどうかや、正確な原因については調査が必要としています。)

《津波と波浪の違い》

津波と比較されるのが波浪(はろう)ですが、仕組みが全く異なります。

波浪は、風の力によって海面付近の海水のみが動きますが、津波は海底地盤の変動で発生するため、海底から海面まで全ての海水が動きます。そのため津波の方がはるかに強いエネルギーを持っています。

波浪の波長が数m〜数百m程度に対し、津波は数㎞〜数百㎞にも及びます。津波は波というよりは、「巨大な海水の壁」が押し寄せてくるイメージです。波長が長いためエネルギーが減衰しにくく、震源から遠く離れた場所まで到達します。

《津波の速度と高さについて》

出典:「津波進行に伴う速度・波高の変化」(地震調査研究推進本部) 

津波は水深5000mでは時速800kmとジェット機並みの速度で伝わり、水深が浅くなるにつれて速度は遅くなります。しかし、海岸近く(水深10m)でも時速36kmとオリンピック選手並の速さで迫ってくるので、津波を目視してからでは走って逃げ切ることは難しくなります。

また津波は陸上を駆け上がります。津波高の2〜4倍の標高(遡上高という)まで駆け上ることもあり、岬の先端や湾の奥などではそれ以上まで駆け上がることもあります。

2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)では、岩手県大船渡市の綾里湾で局所的に40.1mの遡上高が観測され、これまで日本で発生し記録が残っている津波の中で最大を記録しました。

《津波の危険性》

津波は浸水深0.3m以上で歩行は難しくなり、死亡者が出始めます(死亡率0.01%)。0.5mでは成人も流され、車やコンテナが浮き始めます(死亡率4.8%)。1.0mでは死亡率100%に達します。また家屋については、木造家屋では浸水2mで全面破壊に至ります。津波はただの海水ではなく、瓦礫を巻きこんで濁流となるため、瓦礫に挟まれたりぶつかることで負傷や死亡することもあります。

さらに津波は、2度3度と繰り返しやってくることがあり、引く時にも強いエネルギーを持ち、破壊したものを海中に引きずり込みます。

津波フラッグ

2020年6月より、海水浴場等で「津波フラッグ」が運用開始になりました。赤と白の組み合わせの旗により、聴覚に障害がある方や、遊泳中など警報音が聞き取りにくい場合でも津波警報等の発表を視覚的に伝達する取り組みです。海水浴場や海岸付近で津波フラッグを見かけたら、ただちに避難を開始します。

《「津波てんでんこ」という防災教訓が活かされた「釜石の奇跡」》

津波避難については、東日本大震災で「釜石の奇跡」と呼ばれる「津波てんでんこ」が防災教訓です。三陸に言い伝えられる「津波が来たら、家族が一緒にいなくても、とにかくてんでばらばらに高台へ逃げ、命を守れ」という教訓です。

2011年の東日本大震災で岩手県釜石市において、約1300人の死者・行方不明者が出ました。しかし、この地区の鵜住居(うのすまい)小学校と釜石東中学校にいた児童・生徒約570人は、全員無事に避難することができました。

地震発生直後、鵜住居小学校では生徒や教師が校舎の3階へ避難をしようとしていましたが、隣の釜石東中学校では生徒が校庭へ駆け出し、それを見た小学校の児童達は、日頃から釜石東中学校と行っていた合同避難訓練を思い出し、すぐに校舎を飛び出して避難を行いました。

その後、約500m先の高台にあるグループホーム「ございしょの里」まで避難しましたが、建物裏にある崖が崩れていることから危険と判断し、さらに高台にある介護福祉施設「やまざき機能訓練デイサービスセンター」まで避難しました。この後、津波が堤防を越えたという情報に反応し、生徒達はさらに高台の石材店まで駆け上っています。学校や町はこの後、津波にのまれてしまいましたが、生徒達は全員無事に避難することができました。

「釜石の奇跡」は、この地域で日頃から行われていた防災教育を学んだ生徒達が、普段通りの行動を実践した結果、全員が助かることができました。①想定にとらわれない②最善をつくす③率先避難者になる、という避難3原則が防災教訓として語られています。

しかしこの裏には消防団や地域住人の方々の地域ぐるみの助け合いがあったことは忘れてはいけません。この地域の人々全てが、津波に対し高い防災意識を持ち、共助で助け合ったがゆえの「奇跡」であるといえます。

参考:防災ニッポン 特集記事「3.11秘話「釜石の奇跡」の裏に共助のリレーがあった」

地震直後に津波から避難する小中学生ら(住民提供の写真を産経新聞のHPより引用)

「津波てんでんこ」を防災的に付け加えれば、「比較的強い地震が発生した、または地震がなくても津波警報・注意報が発令されれば、とにかく各自てんでばらばらに津波緊急避難場所または高台や鉄筋コンクリートの建物の高い場所へ避難し、命を守れ」といえます。

《津波避難で普段からやるべきこと》

津波のリスクを知るためにまずやるべきことは、自宅や職場など、自分がいる場所のハザードマップを確認しておくことです。ハザードマップで津波浸水のリスクがある場合、地震が発生したり津波警報・注意報が出たら速やかに避難する必要があります。注意すべきは、警報や注意報が間に合わない場合もあるということです。弱い地震でも津波発生の可能性はありますが、特に強い地震が起きた時は、速やかに避難を考えなければなりません。

海の様子を見に行くことは非常に危険です。また、津波は引き潮から始まるとは限らないということも覚えておく必要があります。

避難は海岸から遠くに行くよりも、まずは高い場所に行くことが大切です。津波に対応する緊急避難所(津波タワーや津波ビルなど)や、近くにない場合は、鉄筋コンクリートの建物の上へ避難を目指します。避難時は渋滞するため自動車を利用せず、徒歩や自転車で避難するようにします。

津波は繰り返し来襲する場合があるため、津波警報・注意報が解除されるまでは安全な場所に留まり、絶対に戻らないようにします。

普段から家族で津波避難について話し合っておくことも重要です。また、非常用持ち出し袋(防災リュック)を常に玄関などに置いておき、津波警報が発令されたら寒い冬や夜間であっても、すぐに持って避難できる態勢を整えておくべきです。

これまでの防災教訓に基づき、津波から命を守る行動を普段から考えておきましょう。