防災を意識しても、何から始めればいいか分からないこともよくあります。とりあえず水や食料を多めに買ったり、よくある防災セットを購入して防災対策をしている、という方が見受けられます。私の周りでも、「防災は重要ですよね。とりあえず防災セットは買ってあります」と言う方が多数います。かくいう私も、本気で防災を意識する前は同じような考え方でした。
しかし防災対策の根本は、「災害が発生した時に、まず自分と家族の身を守る」ということです。特に、災害の中でも地震については予想・予知が難しく、突然発生し、倒れた家具や家電・散乱したガラスなどによりケガをしたり、場合によっては命を落とします。
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防災対策、何から始めるか?〜防災対策のはじめかた〜目次
【まずはケガをしない・死なない環境作りの重要性】
1995年の阪神・淡路大震災や2004年の新潟県中越地震など、過去に発生した大地震では、多くの人々が家屋の倒壊や倒れた家具の下敷きになって亡くなったり、大ケガをしました。
大きな揺れにより、家具はただ倒れるだけでなく、食器棚は扉が開いて中の食器類が飛び出して割れ、また丈の低い家具は部屋の中を移動して暴れ、テレビや電子レンジが宙を舞う、という信じられない現象が実際に発生し、大ケガや死亡の原因となります。ストーブなど暖房器具に家具が倒れると、火災の原因にもなります。
災害時は病院機能も麻痺するため、災害発生直後に死亡せずとも大ケガを追うことは、命にかかわります。
災害発生直後に死亡してしまっては、そもそもそれまで備えた全ての防災対策は無駄になります。またせっかく備えておいても、家具が倒れ、家の中のものが散乱し、防災グッズや食料が取り出せなくなったり、使い物にならなくなることもあります。
倒れた家具に避難経路を塞がれたり、ドアが開かなくなって閉じ込められる場合もあります。また、ストーブなど暖房器具に家具が倒れると、火災の原因にもなります。
大地震が発生したときには「固定していない家具・家電は必ず倒れ、宙を舞い、ガラスや食器は割れるもの」と考え、家具の転倒防止対策やガラス飛散防止対策をしておく必要があります。
高層マンションなどでは長周期地震動に備える
「長周期地震動」とは、建物固有の揺れやすい周期(固有周期)と、地震の周期が一致することにより共振を起こし、主に高層マンションなど高層建築物において、周期が数秒〜20秒程度の船酔いを起こすような大きなゆっくりとした揺れが長時間続く現象です。
2011年3月11日の東日本大震災では、東京の西新宿の高層ビルで、最大1m程の揺れが最大約13分間も続きました。
長周期地震動では、背の低い家具でも移動する可能性があり、つり下げ式照明、観賞用水槽、ウォーターサーバーなどは、ワイヤー固定、ベルト固定、すべり止めマット、粘着マットなど適切な器具で対策をする必要があります。
【自宅の建築年数を知る】
室内の地震対策を考える前に、まずは外枠とも言えるご自宅の建物自体の安全性を知ることから始めましょう。
地震に耐える建物の構造の基準を「耐震基準」と言い、建物を設計する際に重視される基準です。
1981年(昭和56年)5月31日までの基準が「旧耐震基準」と言われ、1981年6月1日以降の基準は「新耐震基準」と言われます。旧耐震基準と新耐震基準の分かれ目は、竣工日や築年数ではなく、「建築確認日(建築確認申請が受理された日)」がどちらであるかによります。建物が建ったのが1981年6月1日以降でも、建築確認日が1981年5月31日以前の場合、「旧耐震基準」の可能性があるため、注意が必要です。
1995年の阪神・淡路大地震では、犠牲者の8割以上が家屋の倒壊等による圧迫死が原因であり、倒壊住宅の多くが「旧耐震基準」の建物でした。
「新耐震基準」は、「震度6強、7程度の地震でも倒壊しない水準」であることが求められる耐震基準です。「新耐震基準」で建てられた建物であれば、大地震によりすぐに倒壊する可能性は低く、発生直後に建物の倒壊により死亡したり、自宅に住み続けられなくなる可能性は低くなります。
さらに2000年には、「壁の配置の仕様」や「柱と梁の接合金属」を厳格・明確にし、さらに磨きをかける形で「新耐震基準」に大幅な変更が加えられました。
一度、ご自宅の建築年数や耐震基準について調べておきましょう。
一方、2016年の熊本地震では、震度7の地震が2回発生したことで、新耐震基準の建物でも倒壊した例がみられました。現行の新耐震基準では、繰り返し大きく揺れることは想定されていない点に注意が必要です。
自宅が1981年6月より前に建てられた場合、耐震診断を
1981年5月31日以前の「旧耐震基準」で建てられた建物全てが危険ということではありませんが、地震発生時に安全を確保できるように、古い建物については早めの耐震診断が望まれます。
木造住宅の場合、まずは一般ユーザーを対象とした「誰でもできるわが家の耐震診断(日本建築防災協会)」で住宅の耐震性に関わるポイントを知りましょう。
マンション(共同住宅)の場合も、「耐震診断ポータルサイト(日本建築防災協会)」で耐震診断のポイントを知っておくと良いでしょう。
耐震診断を受けたいと希望した場合、お住まいの自治体にある住宅・建築担当窓口に問い合わせ、まずは自宅の耐震診断を受けます。耐震診断の実施ができるのは、耐震改修促進法に基づき「建築士」かつ「国土交通大臣が定める講習を修了した者」と定められています。
耐震性が不足していると判断された場合、耐震改修工事が必要となります。耐震診断や耐震改修工事にかかる費用については、国や地方公共団体による助成制度も用意されており、併せて確認しましょう。
【家具を選ぶときのポイント】
そもそも家具を選ぶ時に、なるべく倒れにくい背の低い家具を選ぶようにする、という心掛けは重要です。
大きな揺れによって、タンス、棚、食器棚の中身が飛び出してきます。耐震ラッチ(飛び出し防止機構)があれば、揺れを検知すると自動で扉がロックされ、中身の飛び出しを防いでくれます。
また食器棚などガラスが使われている家具では、ガラス面に飛散防止フィルムが貼られているものもあります。
家具を選ぶときは、耐震対策がされているかにも意識して選ぶようにしましょう。
【荷物の置き方や家具の配置を工夫する】
高いところに重いものを置くと揺れで落ちてきて危険なため、高いところに重い家電や荷物を置かないように心がけましょう。棚などの場合、重い荷物はなるべく下の段に入れることにより、重心を低くして倒れにくくすることができます。
家具の配置を変えることで、地震で家具が倒れても被害を最小限にとどめることができる場合があります。
棚やタンスなど倒れる可能性のある家具を、ベッドや布団といった就寝場所から、なるべく離して配置するようにしましょう。また万が一倒れても、就寝場所に直接倒れて来ないように、家具の向きを変えるという方法も有効です。
部屋に閉じ込められるのを防ぐため、ドア付近に家具を置くのも控えるようにするか、向きを調節するようにしましょう。
【家具固定】
家具・家電の固定には様々な方法があります。それぞれの家具・家電に合わせた固定器具を選ぶ必要があり、固定器具にはそれぞれ特徴があります。
L字金具
家具と壁をネジによって固定する器具です。最も安価で耐震効果の高い固定方法になります。スライド式、上向き、下向きの取り付け式があり、下向きの取り付けが最も強度が高くなります。
デメリットとしては、壁と家具に穴を開ける必要があること、壁がボードの場合、裏にある下地の柱や間柱に取り付けなければ強度が得られないことがあります。
壁の裏の下地(間柱)を検出する方法
壁裏の下地の柱や間柱を調べるためには、壁のボードを叩いて打診する方法と、下地探知センサーやプッシュピンといった検出機器を使用する方法があります。
打診の場合、ドライバーの持ち手の部分などで壁を叩き、音で判断します。裏に間柱など下地がない場所では「ポコポコ」といった音がしますが、下地がある場合は「コンコン」といった高い音に変わります。
下地探知センサーは、左右両側から壁面を滑らせて探知することで、音や光で下地の位置を教えてくれます。製品によっては、壁裏の配線も探知してくれるものもあります。
ベルト式・ストラップ式・ワイヤー式・チェーン式・粘着式器具
家具と壁のそれぞれにネジまたは強力な両面テープで金具を取り付け、ベルト、ストラップ、ワイヤー、チェーンなどで金具を結んで家具を固定する器具です。
これらの器具は、ベルトやワイヤーを家具の足などに絡めることもできるため、キャスター付き家具の固定にも使うことができます。
両面テープのタイプは、壁にネジを開けたくない場合や、穴を開けられない家電なども固定することができます。
ポール式器具(突っ張り棒)
L字金具でネジ止めできない、もしくは賃貸物件など壁に穴を開けたくない場合は、突っ張り棒と呼ばれるポール式器具を、家具上面と天井との間に配置することによって固定する方法があります。
L字金具と比較すると固定強度はやや弱いですが、簡単に耐震対策できるメリットがあります。ポール式器具と併用して、家具前面の下側に差し込んでわずかに角度をつけて倒れにくくするくさび形のストッパーや、粘着マットと併用することで、耐震効果を高めることができます。
大きさや高さがある家具に対して、ストッパーや粘着マットのみでは、十分な耐震効果は得られませんので注意が必要です。
家具は地震の揺れにより、前面の下側を支点に動いて倒れようとするため、ポール式器具は家具の両端・奥側に取り付けるのが効果的です。また、天井との隙間が狭ければ狭いほど効果が高くなります。
天井の強度が低い場合は、揺れにより器具が天井を突き破ることがあります。その場合、天井と器具の間に当て板を挟んで設置するようにしましょう。
棚の上に荷物を置いて天井との隙間を埋める方法
比較的背の高い家具であれば、天井の隙間に頑丈な荷物や収納ケースを隙間なく埋めて、突っ張り棒の代わりにする方法もあります。実際に、家具の上に置く耐震用の収納ケースも市販されています。注意点としては、ぴっちりと隙間なく荷物を埋める必要があります。また落下した時に危ないため、重いものは置かないようにしましょう。
応急的には、毛布や段ボールで天井との隙間を埋めるという方法もあります。あくまで応急的な対応になるため、可能な限りL字金具や突っ張り棒などを平時から設置しておくようにしましょう。
粘着マット式
粘着マットとは、ゲル状の粘着式のマットです。小さくて軽い家具やテレビ・電子レンジなどは、下面に粘着マットを貼ることで固定することができます。サイズの大きなテレビは、さらにベルト式などの固定器具を追加するとより耐震効果が高まります。
キャスター付きの家具はロックする
キャスター付きの家具の場合、日常的に動かして使うものは、移動時以外はキャスターをロックするようにしましょう。普段動かさないものは、下皿(キャスターストッパーなど)を設置し、壁や床にベルト式器具やストラップ式器具などで固定しましょう。
家具・家電に合わせた耐震対策をする
それぞれの器具の特徴、使える家具・家電、耐震効果を考え、固定するものに合った器具を選びましょう。
L字金具は比較的安価ですが、それ以外の耐震器具は価格がやや高めに設定されていることが多いです。理想は家中の家具・家電全てを固定することですが、現実的には難しい場合もあります。
寝室のタンスや本棚など、自宅内で過ごす時間が長い場所、大きな食器棚など倒れると命に関わる可能性が高い家具などから優先的に固定するようにしましょう。
【家具の中のものが飛び出さない対策をする】
棚やタンスの中身は、大きな揺れで飛び出します。飛び出し防止には、粘着タイプ・ネジタイプ・掛け金タイプの扉開放防止器具や、揺れを検知して自動で扉が開かないようにする感震ラッチ、落下防止用ベルトなどを設置しましょう。
おすすめは感震ラッチです。普段は作動しないため、いちいち扉を開ける度に解除する必要がありません。ただし感震ラッチは、扉と天板にネジで穴開けが必要になります。
これはメーカーは全く推奨していませんが、我が家ではそれほど重い荷物を入れていない棚については、なるべく家具に穴を開けたくないため、感震ラッチを超強力粘着テープで固定し設置しています(真似される場合は、自己責任でお願いします)。
取り付け金具があると簡単に施行することができます。
食器棚の食器も飛び出して散乱し、ケガの原因になります。100円ショップで売っているような「すべり止めシート」を下に敷くことで、食器の飛び出しを軽減することができます。
また、同じく100円ショップで売られている「S字フック」を棚の取手にかけることで、簡単に中身の飛び出し防止対策をすることもできます。
【ガラスや食器の飛散防止対策】
食器棚などはガラスが割れたり、中の食器がガラスを突き破ることがあります。ホームセンターなどで市販されている、ガラス飛散防止フィルムを貼ることで、万が一割れても飛散したガラスによるケガを防止することができます。
ECサイトでは、飛散防止フィルムを希望のサイズにカット売りしてくれるところもあり、自分でサイズに合わせてカットする手間が省けます。
ただし、網入りガラス、複層(ペア)ガラス、その他特殊なガラスには、熱割れなどの原因となるため貼ることができないことに注意が必要です。
【セーフティーゾーン(安全スペース)を作っておくという方法も】
家具固定はとても重要ですが、住宅内で家具や荷物をなるべく置かないセーフティーゾーン(安全スペース)を設けておくのも一つの手段です。自宅の寝室や廊下などに設定するのがおすすめです。マンションの場合は、共用部分の廊下やエレベーターホールもセーフティーゾーンになり得ます。
緊急地震速報が鳴ったら、速やかにセーフティースペースへ退避して命を守るようにします。
セーフティーゾーンに避難した後、揺れが収まって家の中が散乱していても避難・行動ができるように、セーフティーゾーンには作業用グローブ(軍手でも可)、厚手のスリッパやスニーカー、LEDライト、ホイッスルなど防災用品を備えておきましょう。
【まとめ|命を守り、在宅避難できる環境にしよう】
家具・家電の固定、中身の飛び出し防止対策、ガラスの飛散防止対策を行うことは、大きな地震が発生した時に自分と家族の身を守ることにつながります。またそれだけではなく、自宅が住める環境であれば、その後の避難生活を自宅で送る「在宅避難」が可能になります。
食料、水、非常用トイレの備蓄、防災グッズは、地震発生直後に身を守れた時に初めて役に立ちます。自宅の耐震対策はしっかりと行っておきましょう。
在宅避難についてはこちら ↓
「避難所」と「避難場所」について 〜災害時、避難所に行けばどうにかなるという誤解〜