「避難所」と「避難場所」について 〜災害時、避難所に行けばどうにかなるという誤解〜

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《避難所(指定避難所)と避難場所(指定緊急避難場所)》

災害時、テレビなどでよく耳にする「避難所」ですが、避難所と避難場所を混同しないように注意が必要です。

避難所(指定避難所)は、災害対策基本法に基づき、災害によって自宅に住めなくなった場合などに、一時的に滞在し避難生活を送る場所として定めるものです。指定された小中学校、体育館、公民館などがこれに該当します。あくまで「一時的」に滞在するものなので、いずれは閉鎖され、自宅に戻れない場合は仮設住宅などへ移住する必要があります。よくテレビなどで、大災害で自宅に住めなくなった人々が、避難所生活を送る映像を目にすることがあると思いますが、これが避難所です。

避難場所(指定緊急避難場所)は、災害対策基本法に基づき、切迫した災害の危険から一時的に逃げ込む場所です。災害の種類(洪水、崖崩れ、土石流及び地すべり、高潮、地震、津波、大規模火災、洪水や内水氾濫、火山現象など)ごとに定められ、小中学校や広域避難場所などの中から指定されます。場所によって対応している災害が異なるため、例えば津波や洪水の避難場所ではあるが大規模火災には対応していない、などという事があります。災害の種類によって、逃げ込む先が異なることに注意が必要です。

逆に小中学校などの中には、避難場所と避難所の両方を兼ねている場合もあります。これらの場所はスマートフォンのアプリや自治体のホームページなどで簡単に確認できるため、一度確認しておきましょう。

《避難所とはどういう場所か? 何があり、何をしてくれるのか?》

ここからは、主に「避難所(指定避難所)」について解説していきたいと思います。

災害が発生したら「避難所へ行かなければならない!」「避難所へ行けばとりあえず大丈夫!」と漠然と考えている方がいらっしゃいます。しかしこれは誤りです。そもそも避難所の収容可能人数はその地域の人口より、通常、はるかに少ないです。災害で自宅を失った方、自宅が住めるような状況でなくなった方などが優先的に入る場所となります。特に耐震基準を満たしているマンションは倒壊のリスクが少ないことから、マンション住民が避難所へ来ることは想定されていません。

避難所の開設は自治体職員や施設管理者、地域の自主防災会が行いますが、大規模災害時は自治体職員も被災者となります。開設に時間がかかる場合もあり、開設後は避難者逹自身で運営する必要があります。自治体などと協力し、避難者達が主体となって運営組織を立ち上げ、避難者の管理、物資の供給の管理、衛生管理、生活ルールづくりなどの運営・管理を、避難者達の手で行う必要があります。

避難所はホテルでもなければ、避難者はお客さまでもなく、避難所は共同生活の場であり、避難者自身が運営者であるということを肝に銘じる必要があります。

避難所に食料など備蓄物資が十分量ある保証はありません。また環境も決してよいとはいえず、多くの避難者が集まればそれだけ個々のスペースは限られ、プライバシーもなく、トイレの数も圧倒的に足りず、清掃が行き届かない場合が多く不衛生な状態となります。胃腸炎などの感染症も蔓延し、特に2021年現在流行している新型コロナウイルス感染症も問題になります。女性や子供が狙われる性犯罪も実際に発生しています。

このように避難所とは、行けば自治体が何とかしてくれるわけではなく、あくまで場所と多少の物資を提供してくれるのみの場所です。

《災害時の基本は在宅避難を心がけ、準備をしておくこと》

避難所に行くのはあくまで最終手段であると考え、災害時は在宅避難を心掛けましょう。

在宅避難では自宅にあるものが備蓄品として使え、慣れ親しんだ環境でプライバシーも確保されます。特に小さな子ども、傷病者、高齢者など災害弱者と呼ばれる方が家族にいる場合、避難所生活は過酷なものとなり、高齢者などは災害関連死(誤嚥性肺炎などが原因となる)のリスクもあります。

在宅避難をするためには、災害時にライフラインが停止しても生活できる環境と準備が必要です。具体的には、自宅の耐震対策や家具の固定を行い、食料や水の備蓄をしておきます。非常用トイレ、カセットガスコンロ、LEDランタンなど灯りや電池の準備も必要です。

避難所は、避難所生活をしている人だけでなく、車中泊を含む避難所外で避難生活をしている人(在宅避難も含む)に対しても、等しく物資の供給、情報の共有などが行われます(現実的には、物資は避難所で暮らす避難者達へ優先的に配布されます)。このため在宅避難をしながら、最小限の物資の援助や情報を得るために避難所を利用するのがベストです。

避難所とは、その地域で避難生活を送る全ての人にとって、生活再建の拠点であるといえます。