地震による災害 〜大きな揺れで何が起こるのか?〜

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《大地震によって発生する災害》

地震の発生を予知することは現在の科学技術では難しく、突発的に発生します。そのため地震が発生すると何が起こるかを知り、地震に対してどう備えておくかが非常に重要となります。

地震とは 〜地震大国日本に生きる私達が知っておきたい基本知識〜

《建物や土木構造物の損壊や倒壊、室内の家具・家電の転倒や落下》

2016年の熊本地震で倒壊した家屋

大きな地震が発生すると、建物や土木建築物に大きな被害をもたらします。また、固定していない家具や家電製品は転倒・落下したり、宙を舞い人を襲います。

1995年に発生した阪神・淡路大震災では、死者約6,400人のうち約8割は、建物や家屋の倒壊により圧死または窒息死しており、死者の大多数は地震発生直後間もなく死亡しています。

被害は1981年(昭和56年)6月より前の旧耐震基で建てられた建物に集中しており、対して新耐震基準で立てられたものは被害が極めて小さかったという事実がありました。こうした経験から政府の中央防災会議でも、防災上の最重要課題として建築物の耐震化を位置付けています。

《長周期地震動》

規模の大きい地震が発生すると、高層マンションなどの高層建築物では、揺れの周期が数秒〜20秒程度と長い「長周期地震動」が起こります。これは、建物固有の揺れやすい周期(固有周期)と、地震の周期が一致することにより共振を起こすためです。

長周期地震動では、船酔いを起こすようなゆっくりとした揺れが長時間続きます

2004年の新潟県中越地震では、長周期地震動により東京の六本木ヒルズのエレベーター1基のワイヤが切断され、2011年3月11日の東日本大震災では、東京の西新宿の高層ビルで最大1m程の揺れが最大約13分間も続いています。

気象庁では、長周期地震動を4階級に分けて指標としています。特に高層マンションにおいては、長周期地震動により室内の家具や家電が散乱して怪我をする可能性があり、家具の固定が非常に重要です。

長周期地震動階級(出典:気象庁)

また長周期地震動との共振により「スロッシング(液面揺動)現象」という、地震波と貯水槽や石油コンビナートなどのタンク内の液体が共振し、液面が大きく揺れる現象が起こります。この現象により、貯水槽が破壊されたり、石油タンクの浮き屋根の損傷や内容物が溢れたりして、火災が発生することがあります。

2011年の東日本大震災では、千葉県市原市のコスモ石油千葉製油所でスロッシング現象による石油タンクの爆発炎上事故が発生し、鎮火までに11日間を要しました。

東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)で発生したコスモ石油千葉製油所の爆発炎上事故

《大規模火災・火災旋風》

大きな地震が発生すると家屋の倒壊や家具・家電の転倒により、電気配線やガス管が破損したり、ストーブなどの暖房器具に可燃物が被さったり接触することで火災が発生します。また地震による停電が復旧した時に、地震時に使用していた電気暖房器具に電気が流れて出火する「通電火災」も多発します。

地震による火災は、地震直後と停電から復旧した時に発生することが多く、消防の能力を大きく上回り大規模な火災に発展するため、各家庭において火事が起こりにくい環境を整えることで火災を未然に防ぐこと、火災が発生した場合は初期消火を行うことが非常に重要です。

1995年の阪神・淡路大震災では、真冬の早朝に発生したため、多くの家庭で暖房器具を使用していたところに地震が発生し、家が潰れて多くの場所から出火しました。また停電復旧後の「通電火災」も多発しました。同時多発的に出火したため、消防能力を大きく上回り街は燃え尽きました。

1923年の関東大震災では、多数の火災に加えて風が強かったこともあり、炎や煙が渦を巻く「火災旋風」と呼ばれる炎の竜巻が発生し、約10万人の死亡者のうち9割が火災で亡くなっています。

30年以内に70%の確率で発生すると想定されている首都直下地震では、火災による死者数が全体の約7割と、建物倒壊による死者数より多く想定されています。これは、山手線外周部から環状7号線沿いに老朽化した木造住宅が密集しており(木密地域)、同時多発的に火災が発生し、火災旋風により被害を拡大させると想定されています。

首都直下地震〜いつ起きてもおかしくない、首都を揺るがす大地震〜

《地滑り・崖崩れ・山体崩壊・岩屑なだれ》

2018年 北海道胆振東部地震で発生した厚真町の土砂崩れ

強い揺れにより、山地では広い範囲で地滑り、崖崩れが発生することがあり、山体が大規模な崩壊を起こすと山体崩壊が発生し、大量の土石が流下する岩屑なだれが発生することもあります。

2018年の北海道胆振東部地震では、厚真町で大規模な土砂崩れが発生し、36人が死亡しています。

2004年の新潟県中越地震、2008年の岩手・宮城内陸地震でも多数の地滑りが発生しています。1984年に発生した長野県西部地震では、御嶽山が尾根の部分から崩れ落ちる大崩壊が発生しました。

《液状化現象》

海や川の近く、埋立地、昔の河道を埋め立てた土地、干拓地など、地下水位が高く(=浅く)、緩く堆積した砂地盤の場所では、強い地震動により地層自体が液体状になる液状化現象が発生します。海沿いの埋立地で発生しやすいイメージですが、条件を満たすと内陸の平野部でも発生するリスクがあります。

2011年の東日本大震災では千葉県浦安市などの湾岸地区、内陸部では埼玉県久喜市のように田んぼを埋め立てた土地において液状化現象が発生しています。

液状化現象のイラスト

平常時には地盤は砂粒同士が接触していることで地盤を成しています。強い地震が発生すると、揺れにより砂粒の間隙(かんげき)水圧が高くなり、砂粒同士の結合が弱まって地下水の中に浮かんだ泥水のような状態になります。その時に地表に水や砂を噴き上げる「噴砂現象」がみられることがあります。泥水の状態では、建物を支える力は弱くなるため、建物や建築物は傾いたり沈下し、比重の小さい地下の水道管やマンホールは浮力で浮き上がります(抜けあがり現象)

そして揺れが収まると、泥水状態の中の砂粒が沈降し、やがて水が抜けると砂粒同士の隙間が小さくなって固まり、地盤が沈下します。

液状化現象の実験動画

液状化現象が発生すると、建物が傾いたり道路などが沈下することで被害が出るだけでなく、地中の水道管が浮き上がるなどすると断水したり、ライフラインへの影響も甚大となります。

各自治体では「液状化マップ」や「液状化危険度分布」などが公開されているため、確認しておきましょう。

《津波》

海底のプレート境界で発生する地震に伴い、海底地盤が隆起・沈降したり、海底の地滑りなどが発生することにより、海水が上下に変動することで津波が引き起こされます。

津波が押し寄せてくる速度はオリンピック選手並の速さ(海岸付近の場合)があり、目視してからでは走って逃げ切ることは難しくなります。また津波は陸上を駆け上がり、津波高の2〜4倍または地形によってはそれ以上の標高(遡上高という)まで駆け上ることがあります。予想される津波の高さより高い標高にいるからといって、津波が到達しないとは限りません。

2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)では、岩手県大船渡市の綾里湾で局所的に40.1mの遡上高が観測され、これまで日本で発生し記録が残っている津波の中で最大を記録しました。

津波の想定浸水範囲については、ハザードマップで知ることができます。必ずハザードマップを確認しておくことが重要ですが、2011年の東日本大震災ではハザードマップで示されていた想定浸水範囲よりも、広い範囲で津波が押し寄せた地域もありました。住民にとって誤った安心材料となり、結果それが避難を遅らせて被害を拡大させた可能性も指摘されています。ハザードマップには想定外があることも忘れないようにしましょう。

津波とは 〜全てをのみこむ、巨大な海水の壁〜