原子力災害に備える「ヨウ化カリウム」 〜やりすぎ?防災シリーズ【放射性ヨウ素(ヨウ素131)の甲状腺への集積を抑える薬剤】〜

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《原子力災害に備える「ヨウ化カリウム(安定ヨウ素剤)」》

「ヨウ化カリウム(安定ヨウ素剤)」は、原子力発電所の事故など原子力災害時に、放射性物質の吸入や摂取による内部被ばくを低減する目的で使用される薬剤です。一般的には、主に甲状腺機能亢進症という病気で使用される薬剤でもあります。

原子力災害についてはこちら ↓

原子力災害・核災害について 〜原子力発電所事故、核兵器攻撃による放射線・放射性物質対策について〜

《放出される放射性物質と内部被ばくの影響》

重大な原子力施設の事故では放射性ヨウ素(ヨウ素131)、セシウム134、セシウム137、ストロンチウム90、プルトニウム等の放射性物質が大気中に放出されます。

その中でも、放射性ヨウ素が呼吸や飲食物を通じて体内に取り込まれると、大部分は腎臓から尿中に排泄されますが、10〜30%は24時間以内に甲状腺に集積し、数年から数十年後に甲状腺がんなどを発症させる可能性があります。特に乳幼児は大人より健康影響が大きいとされています。

また高い線量に被ばくした場合、数か月の期間をおいて甲状腺の細胞死を起こした結果、甲状腺機能低下症を発症することがあります。

放射性ヨウ素の物理学的半減期(放射線を出し続ける能力を失うスピード)は約8日とされています。

《ヨウ化カリウムの作用機序》

放射性ヨウ素を吸入するまでの24時間以内にヨウ化カリウムを服用することにより、90%以上の抑制効果が期待できます。ヨウ化カリウムを服用すると、放射性ヨウ素と同様に甲状腺に取り込まれ、甲状腺へのヨウ素の取り込みが抑制されます。その結果、後から吸収した放射性ヨウ素の甲状腺への集積を抑えることができます。

この効果はヨウ化カリウム服用後、少なくとも24時間は持続することが認められています。

つまり、先に安全な安定ヨウ素で満たすことにより、甲状腺に集積する性質を持つ危険な放射性ヨウ素の集積を抑えるという仕組みです。

原子力規制委員会「安定ヨウ素剤を事前配布するための模擬説明会 配布資料」より抜粋

《服用量、副作用や慎重投与について》

乳幼児、子供、大人で服用量が異なります。一般的には錠剤ですが、子ども向けには飲みやすいゼリー剤タイプもあります。

50mg丸剤(日医公HPより引用)
16.3mgゼリー剤(日医公HPより引用)
32.5mgゼリー剤(日医公HPより引用)
年齢ヨウ化カリウム量薬剤
生後1ヶ月未満16.3mg16.3mgゼリー剤 1包
生後1ヶ月〜3歳未満32.5mg32.5mgゼリー剤 1包
3歳〜13歳未満50mg50mg丸剤 1錠
13歳以上100mg50mg丸剤 2錠
ヨウ化カリウムの年齢別内服量

安定ヨウ素剤は内服すると嘔吐、発疹、 胃痛、下痢、頭痛などの副作用が起こることがあります。原則1回の適量服用では、健康被害が生じる可能性は極めて低いとされていますが、ヨード過敏症、甲状腺疾患などがある方は慎重投与の対象に該当し、元々飲んでいる薬の種類によっては相互作用に注意が必要です。

安定ヨウ素剤を過剰に服用することは、防護効果を高めることにはならず、逆に甲状腺機能低下症などの副作用のリスクが高くため、定められた量以上に服用するべきではありません。

日本医師会より「原子力災害における安定ヨウ素剤服用ガイドブック」が発行されています。

《ヨウ化カリウムの効果の限界、注意点》

注意が必要なのは先に述べた作用機序により、ヨウ化カリウムは放射性ヨウ素による甲状腺への内部被ばくの予防・低減のみに効果があり、放射性ヨウ素以外の放射性物質による被ばくは抑えられません。また放射性ヨウ素が体内に取り込まれること自体を防ぐこともできません。すでに甲状腺に取り込まれてしまった放射性ヨウ素の除去はできず、すでに生じた甲状腺障害を被ばく前の状態に戻すことはできません。

40歳以上の方においては、放射性ヨウ素の吸入等により甲状腺がんの発症のリスク上昇は証明されていません。そのため、地域によってはヨウ化カリウムが事前配布されている地域もありますが、原則40歳未満が対象となっています(40歳以上であっても、妊婦、授乳婦及び事前配布の時点で挙児希望のある女性は優先的に対象とされ、40歳以上であっても希望者には事前配布をしてもよいとされています)。

原子力災害発生時の緊急配布においては、年齢にかかわらず配布対象としてよいとされています。

《服用のタイミングや自治体の備蓄体制について》

 ヨウ化カリウムは、原子力規制委員会が服用の必要性を判断し、その判断に基づいて原子力災害対策本部または自治体から指示があった場合に、原則1回服用します。

ただし、放射性ヨウ素による甲状腺の内部被ばくの可能性が24時間以上継続し、再度の服用がやむを得ない場合は、24時間の間隔を空けて再度服用することとされています。その場合も原則として原子力規制委員会の判断により、原子力災害対策本部または自治体からの指示があった場合のみ服用します。

ヨウ化カリウムの備蓄・配布体制は、原子力施設からの距離に応じて異なります。原子力発電所の場合、おおむね半径5km圏(PAZ:予防的防護措置を準備する区域) の住民にはヨウ化カリウムの事前配布が実施されています。PAZ内の保育所、幼稚園、学校、会社などでは事前に備蓄している場合もあり、緊急時に配布されます。

おおむね半径5kmから30km圏(UPZ:緊急防護措置を準備する区域)では、地域によっては事前配布されている所もありますが、基本的には避難経路に面した公共施設等に自治体がヨウ化カリウムを備蓄しており、緊急時に避難所や搭乗するバス等で配布されます。

《個人で備えている目的》

放射性ヨウ素に暴露する24時間前に安定ヨウ素剤(ヨウ化カリウム)を内服することにより、90%以上の抑制効果があります。しかし吸入した8時間後の内服では40%、16時間以降の内服ではほとんど効果がなく、24時間後では7%まで抑制効果が下がると報告があります。そのため原子力災害発生後は速やかに内服する必要があります。

我が家ではインフラ停止、災害発生後の混乱等により、服用遅れがないようにするために備えています。ヨウ化カリウムはインターネット上の個人輸入サイトで簡単に個人購入することができますが、医学的知識なしで安易に内服するべきものではなく、実際は皆様にあまりお勧めできる備えではありません。あくまで原子力災害対策の一部として参考にしてください。

安易な薬の備蓄や服用は避けるようにしましょう。