熱中症は、実際に死亡者も毎年多数出ている侮れない病態です。熱中症予防としては、水分補給だけでなく塩分補給も重要です。塩分補給に便利な「塩タブレット・塩飴」が多数販売されており、普段の持ち運びにも便利で、熱中症予防として非常に有効です。最近では防災向けとも言える、長期保存可能な塩タブレットも発売されています。
内科医として、また防災士としての立場から、熱中症予防や塩タブレット・塩飴の効率的な摂取の仕方を、防災的な観点も含めて解説します。
目次
【熱中症について】
熱中症とは?
人間は体を動かすと、体内で熱が作られて体温が上昇します。これに対して体温を調節する機能が備わっており、体の表面から熱を逃す「熱放散」や、汗をかいてそれが蒸発する「気化熱」を利用して、体温を調節しています。
しかし夏場など、気温や湿度が高い環境で体温が上がると、体内の熱をうまく外に逃がすことができなくなります。そういった環境下で長時間過ごしたり運動を行うと、体内に熱がどんどんこもり、汗をより多くかいて水分や塩分が減っていきます。そうすると、体内の血液の流れが悪くなり、電解質(ナトリウムなど)のバランスも崩れます。汗もかけなくなり、体内の熱を空気中に逃すことができなくなり、ますます体内に熱がこもることになります。
脱水により循環する血液が脳、肝臓、腎臓、筋肉など、各臓器に十分に行き渡らなくなると体内に熱がこもり、各臓器の機能が低下し、様々な症状が出現し、熱中症が引き起こされます。この状態が続くと、各臓器に不可逆的な障害が起こり、最悪死にいたる可能性もあります。
総務省消防庁の発表によると、令和3年の6月〜9月において熱中症による救急搬送は46,251人、死亡者数は80人です。最も多いのが高齢者であり、発生場所として最も多いのが「住居」となっています。
近年の電力ひっ迫や災害において、夏場に停電が発生することにより、熱中症の危険性がより高くなっています。
夏の停電対策 〜電気を「使わない」対策と「使う」対策で、熱中症を予防する〜熱中症になりやすい人
熱中症は体温調節機能の破綻によるため、体温調節能の低い高齢者や乳幼児、脱水状態の人、病気を持っている人、体調が悪い人などが、熱中症になりやすいと言えます。
このような方々は、自分で適切に温度管理、水分補給や塩分補給ができなかったり、症状が出ても周りに伝えられないこともあり、周囲の人々による注意や観察が重要となります。
熱中症の症状
熱中症では、軽症から重症まで様々な症状が出現します。そのため少しでも体調に変化があれば、速やかに水分や塩分を補給し、涼しい場所へ移動することが重要です。
- 手足のしびれ、こむら返り
- めまい、立ちくらみ
- 頭痛、吐き気、嘔吐
- 倦怠感(だるさ)、虚脱感
- 普段と様子が違う、意識障害
- けいれん など
熱中症の重症度
熱中症の重症度は、軽症のものからⅠ度、Ⅱ度、Ⅲ度と分類されます。軽症でも重症化することもあり、重症化すると死亡する可能性もあります。
【Ⅰ度(現場での応急処置で対応できる軽症)】
- めまい、立ちくらみ、失神(熱失神)
- 生あくび
- こむら返り
- 意識障害は認めない
【Ⅱ度(病院への搬送を必要とする中等症)】
- 頭痛
- 吐き気・嘔吐
- 倦怠感・虚脱感
- 集中力・判断力の低下
- 「いつもと様子が違う」程度の軽度意識障害を認めることあり
【Ⅲ度(入院して集中治療の必要の必要性がある重症)】
Ⅱ度の症状に加えて
- 意識障害、けいれん、手足の運動障害
- 高体温
- 肝機能障害、腎機能障害、血液凝固異常
意識がおかしいとき、自力で水分摂取できないとき、涼しい場所で体を冷やしても症状が改善しないときなどは、速やかに医療機関を受診する必要があります。
【熱中症対策】
熱中症対策の基本は、なるべく暑い環境を避け、こまめな水分・塩分補給を行うことです。
- 直射日光を遮る(帽子、日傘、カーテン、レース、すだれなど)
- クーラーや扇風機を積極的に使う
- 涼しい服装にする
- 風通しを良くする
- うちわや扇子、ハンディファンなどを使う
- こまめな水分補給・塩分補給
- 濡れタオルや水風呂で体を冷やす
- 保冷剤や、凍らせた水やお茶のペットボトルを活用する
保冷剤や濡れタオルなどで体を冷やす場合、首まわり、わきの下、足の付け根(鼠けい部)、手首の内側といった太い血管が通っている箇所を冷やすと効率的です。保冷剤は肌に直接あてず、タオルなどで包んで使用するようにします。
【熱中症予防になぜ塩分摂取が必要か?】
私たち人間の血液中には、約0.9%(100mlあたり0.9g)の食塩(塩化ナトリウム)が含まれています。そして汗には、個人差やその時の体の状態により差はありますが、約0.4%(100mlあたり0.4g)の食塩(塩化ナトリウム)が含まれています。
大量に汗をかくと体内のナトリウムが失われますが、その状態で水だけ飲むと血液中のナトリウム濃度が希釈されて低下し、低ナトリウム血症という状態になります。
またナトリウム濃度が低下すると、人体の防御反応としてそれ以上ナトリウム濃度を下げないように、口渇感を感じにくくなり、同時に血液を濃縮してナトリウム濃度を維持するため水分を尿として排泄させます(自発的脱水症)。この状態になるとますます脱水が進行し、熱中症悪化の原因となります。
そのため大量の汗をかく状況では、水分補給だけでなく塩分補給も必要となるわけです。
【スポーツドリンク・経口補水液に推奨される塩分濃度】
環境省の熱中症環境保健マニュアルでは、熱中症予防の水分・塩分補給として、スポーツドリンクや経口補水液など、塩分濃度0.1〜0.2%(100mlあたり、食塩0.1〜0.2g)の飲料が推奨されています。
小腸においてナトリウムとブドウ糖は1:1で吸収されるため、適度な糖分を塩分と一緒に摂取することにより、ナトリウムの吸収が速やかになり、一緒に引っ張られて水分も素早く吸収されます。そのため、熱中症対策には適度な糖分を含んだ飲料が推奨されています。
ただし、スポーツドリンクの中には糖分を多量に含むものもあるため、飲み過ぎによる糖分の過剰摂取には注意が必要です。
市販のスポーツドリンクではなく自分で調製する場合、1リットルの水にティースプーン半分くらいの食塩(1〜2g)と砂糖大さじ 2〜4 杯(20〜40g)の糖分を溶かして作ることもできます。
【塩タブレット・塩飴とは?】
夏場になるとスーパーや薬局でよく見かける塩タブレットや塩飴は、適度な塩分(塩化ナトリウム)、カリウムなどの電解質、糖分などを含んだタブレットや飴です。水分と併用して摂取することにより、ナトリウムなどの電解質や糖を補充し、熱中症を予防することができます。疲労回復効果があるクエン酸が含有されている商品もあります。
各メーカーより色々な味が展開されており、持ち運びもしやすく、屋外での熱中症対策にも便利なアイテムです。
【塩タブレット・塩飴の摂取量の目安】
製品によって差がありますが、塩タブレットの場合おおむね1粒あたり食塩0.1〜0.2gが含有されています。
水分と塩分の補給の目安として、0.1~0.2%の食塩水が推奨されているため、水分100mlあたり1〜2粒を摂取するのが目安となります。
【高血圧など持病で医師から塩分制限を指示されている場合、どうすればいいか?】
夏は熱中症予防に水分補給と塩分補給が重要ですが、高血圧など塩分制限が必要な方は注意が必要です。高血圧の方は、原則として夏でも適切な減塩が必要であり、1日6g未満が目標です。
スポーツドリンクは500mlあたり食塩が0.5g程度、経口補水液では500mlあたり食塩が1.5g程度含まれています。そもそも日本人の食塩摂取量は平均1日約10gと多く、夏だからといって、大量に汗をかくわけでもないのにスポーツドリンクや経口補水液を飲みすぎると、塩分過多となります。
実は、冷房の効いた屋内などでかく少量の汗の場合は、水分が99%でありほとんど塩分は出て行きません。そのため、高温環境下での運動や労働などで大量に汗をかいている場合を除き、普通に食事摂取できていれば、あえて塩タブレットやスポーツドリンクなどで塩分補給する必要はありません。
特に糖尿病で治療中の方は、スポーツドリンクの飲み過ぎによる糖分過多にも注意が必要です。
日頃から減塩を心がけている方や、高血圧の薬を服用中の方は、かかりつけの先生に相談されることをおすすめします。
【防災向け!長期保存可能な「O.R.S経口補水塩タブレット」】
防災向けとして、イギリスの大手ヘルスケア会社から発売されている「O.R.S経口補水塩タブレット」という製品がおすすめです。インターネット通販や、一部のスポーツ用品店や薬局で購入することができます。
一般的な塩タブレットは賞味期限1年程度となっており、翌年の夏に余っていたものを摂取しようと思ったら、賞味期限か切れていたということもよくあります。このO.R.S経口補水塩タブレットの賞味期限は製造から3年となっており、長期保存が可能です。
長期保存可能ですが、ラクトース&グルテンフリー、人工防腐剤フリー、ノンカフェイン、世界アンチドーピング機構(WADA)のドーピングで禁止されている原料の使用なし、ヴィーガン対応となっており、子供から大人、そしてアスリートまで安心して摂取することができます。
水100mlに対し1粒溶かすことで、WHOの経口補水液理論と同等の電解質濃度を得ることができ、水500mlに対して1粒溶かすことで、スポーツや屋外活動での発汗による水分補給に適した濃度とすることができます。フレーバーはレモン・イチゴ・カシスの3種類となっていて、好きな味を選べるのも嬉しいところです。
もちろんそのまま食べて電解質補給をすることもできます。
携帯性に優れているため、夏場の避難を想定して防災リュックに1つ入れておくということもできます。実際に私も、自宅に備えてある1次避難用(緊急避難用)の非常用持ち出しリュックの中に1つ入れています。
まとめ|災害時の塩分補給も視野に備えましょう。
夏は熱中症リスクが高い季節です。適度な水分補給・塩分補給には常に気を配りましょう。
また、近年では災害や電力ひっ迫が多発しており、停電によりクーラーや扇風機が使えないという事態も十分想定されます。災害が発生すると流通が停止し、普段どこでも買えるものが買えなくなる場合があります。防災的にも、自宅に塩タブレットや塩飴があると安心です。スポーツドリンクや経口補水液も積極的に活用したいところです。
長期保存可能な塩タブレットもおすすめですし、一般的な塩タブレットでも、お店で購入する時に1袋だけでも余分に購入しておき、常に家に在庫を残しておく「ローリングストック法」で日常備蓄するのもおすすめです。
あらゆる状況下での熱中症に気をつけて暑さを乗り切りましょう。