災害時は電気・ガスなどライフラインが止まり、物流などインフラが停止し、燃料が枯渇します。ガソリンスタンドには長蛇の車列ができ、スーパーやホームセンターに売られているカセットガスは、すぐに売り切れます。
そのような状況に備え、防災対策として燃料の備蓄を考えたいところですが、一般家庭で行える備蓄量や保管方法、燃料の劣化については注意が必要です。家庭における燃料の備蓄について紹介します。
目次
《防災として燃料を備蓄する目的》
燃料を備蓄する目的は、エネルギーを備蓄することです。この化学的なエネルギーを、車なら運動エネルギーに、発電機であれば電気エネルギーに、石油ストーブといった暖房器具であれば熱エネルギーに変換することで、命を守ったり、被災時の生活の質を向上させることができます。
具体的には、ガソリン・軽油の備蓄があれば、被災しても車を使うことができます。ガソリンやカセットガスの備蓄があり、対応する発電機があれば電気を作ることができ、照明や電化製品を使用したり、調理、暖房としても使うことができます。灯油があれば、石油ストーブを使うことができ、機種によっては天板で煮炊きといった調理をすることもできます。
このように、様々なエネルギーに変換できる燃料は、災害時においてとても重要な資源となります。
《ガソリン・軽油》
ガソリンや軽油は、車や発電機の燃料として使用されます。災害時には、ガソリンスタンドに給油待ちの長い車列ができるように、燃料の需要が供給を上回ります。
そのため、防災備蓄としてガソリンや軽油の備蓄をしたいところですが、そもそもガソリン・軽油は揮発性が高い危険物です。扱いを誤れば、大惨事に繋がります。特にガソリンは-40℃程度で揮発するため、常に引火の危険性があります。
また、ガソリンや軽油は長期保存が難しい点に留意が必要です。長期保存により空気と触れて酸化・劣化し、劣化したものを使用すると故障につながります。冷暗所に保管して約半年、空気に触れる場所では3ヶ月程度で劣化するようです。
明確な使用期限が定められているわけではありませんが、ガソリン・軽油の使用期限は3〜6ヶ月が目安とされていることが多いです。
ECサイトでは、3年保存が可能な「ガソリンの缶詰」という備蓄用の商品があります。どうしてもガソリンを長期備蓄するのであれば、こういった商品も検討されます(ただし割高となります)。
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珍しいですが軽油の缶詰もあります ↓
ガソリン携行缶
一般的にガソリンや灯油を運搬したり、自宅等で管理する場合は、消防法に適合した専用の容器で運搬・保管する必要があります。
余談ですが、我が家には過去に四輪駆動車に乗っていた時に、何となく見た目の良さで買った、ジュラルミン製の容量10Lのガソリン携行缶があります。消防法令適合品です。
本来はガソリンを入れて持ち運び、燃料が不足した時に補充するためのものですが、一度も使ったことはありません。捨てるのも勿体無いので、災害時に活用する想定でそのまま保管しています。
ガソリン携行缶は基本的に金属製の容器がほとんどであり、ガソリンを乗用車で運搬する場合は最大22Lまでと規定されています(法令に適合したプラスチック容器の場合は10L以下)。そのため多くのガソリン携行缶は、20Lまでの製品が主に販売されています。
消防法令で定められた安全性能基準に適合している必要があり、適合品であればKHKマーク(危険物保安技術協会)またはUNマーク(国連規格)のいずれか、または両方が貼付されます。
ガソリンはガソリンスタンドで購入しますが、2020年02月01日から「危険物の規制に関する規則」の改正により、ガソリンスタンド事業者は購入者の本人確認や使用目的の確認が義務付けられました。また購入者の氏名・住所・販売量なども記録されます。
また、ガソリンを携行缶へ入れる作業は、ガソリンスタンドの作業員が行わなければならないと法律で規定されています。セルフ式のガソリンスタンドであっても、ガソリンスタンドの従業員が行うことになっている点に注意が必要です。
軽油を運搬・保管する場合は、消防法令に適合した金属またはポリタンクを使用します。同じポリタンクでも、灯油用のポリタンクを使用することはできないため、注意が必要です。
軽油を車で運搬する場合、プラスチック製容器であれば30L以下、金属製容器であれば60L以下と定められています。
積極的な備蓄よりは、こまめな給油がおすすめ
ガソリン・軽油は危険物であり、長期備蓄が難しい物であるため、燃料自体を自宅に保管しておくのではなく、車やバイクであれば燃料が半分になったらこまめに給油し、常にガソリンタンクの半分以上の燃料を確保しておく習慣をつけることが現実的と言えます。
発電機を定期的に使用するのであれば、燃料を多めに備蓄し、使った分だけ補充する「ローリングストック」で備えておくのも良いでしょう。
《灯油》
灯油はポリタンクに入れて持ち運ぶことができます。この場合、JIS規格に適合しているJISマーク入りのものを選ぶと安全です。
ガソリン・軽油と同様、灯油は長期保存が難しい点に留意が必要です。長期保存により空気と触れて酸化・劣化し、劣化したものを使用すると、暖房機器の故障につながります。
冷暗所に保管しても約半年が限界で、空気に触れる場所では3ヶ月程度で劣化します。灯油は暖房機器に使うことが多いため、一般的に使用期限はおよそ1シーズンと言われています。
灯油を使う家庭では、消費しながら多めに備蓄する「ローリングストック」で備蓄することができますが、灯油を使わない家庭では劣化してしまうため、防災用として灯油の備蓄はおすすめされません。
ECサイトでは、長期保存可能な灯油の缶詰という商品も販売されており、長期保存したい場合は検討されます。
灯油の缶詰はこちら(白灯油と灯油は全く同じものです) ↓
《カセットガスボンベ》
カセットガスボンベは、現状最も安全かつ簡便に燃料を備蓄する手段です。
カセットガスとカセットコンロを備えておくと、ライフラインが停止しても調理やお湯を沸かすことができ、温かい食事を得ることができます。また、電源・電池不要なカセットガスのみで動くカセットガスストーブやファンヒーターは、冬の停電時に活用でき、カセットガス発電機があれば電気を作り出すこともできます。
冬の停電対策 〜停電時の寒さ対策|燃料・電気を「使わない」対策と「使う」対策〜カセットガスの備蓄の目安は、1人1週間あたり6本と言われています。冬の停電対策として、カセットガスストーブやファンヒーターにも使用するなら、さらに多めに備えておく必要があります。そのため、1週間分として7本〜10本程度の備蓄をしておくのがおすすめです。
カセットガスは、ガス漏れを防ぐボンベ内のゴム部品が経年劣化するため、製造日から7年が使用期限とされています。同様にカセットコンロやカセットガスストーブ・ファンヒーターも、ゴムパッキンの経年劣化のため、製造日から10年で買い替えが推奨されています。
カセットガスの製造年月日は缶底に記載されているため、その年月日に7年を足した時期が使用期限となります。
カセットガスは、使用時間や火力は他の燃料に劣りますが、長期保存が可能です。またボンベは安全性が高く、正く保管すれば屋内に安全に備蓄することもできます。
カセットコンロとカセットガス 〜燃料を安全に備蓄でき、災害時でも温かい食事にありつくために〜《消防法で決められている備蓄の上限》
ガソリンや灯油などの燃料は、上限なく備蓄してよいわけではなく、消防法で細かく規定されています。
ガソリンであれば40L未満、軽油であれば200L未満までが、所轄の消防署へ届け出や市町村長の許可なしに保管できる上限です。それ以上になると、所轄の消防署への届け出が必要となったり、保管する場所や建物の大掛かりな改修が必要となります。
灯油の場合、消防法では1,000L未満ですが、市町村の火災予防条例によっても規制を受けるため、自治体によって異なります。おおむね一般家庭における、所轄消防署への届け出が不要な上限は、200〜500L未満となります。
カセットガス(ガス)の備蓄の上限も、消防法により規定されています。建物の改築や専用の保管庫を設けることなく、消防署へ無届けで保管できるガスの最大量は、300kg未満です。カセットガス1本あたりのガス容量は250gのため、1,200本未満までは無届けで自宅で保管が可能ということになります。
- ガソリンの備蓄は40L未満(乗用車で運搬する場合は22Lまで)
- 軽油の備蓄は200L未満(車で運搬する場合、プラスチック製容器であれば30L以下、金属製容器であれば60L以下)
- 灯油の備蓄は200L未満(市町村の火災予防条例によって規制を受けるため、自治体によって異なる。車で運搬する場合は1,000Lまで。ただし、車の最大積載量に注意が必要)
- カセットガスボンベは1200本未満(通常の250g入りの場合)
一般家庭で最大量を備えることはまずないと思いますが、どうしても燃料を多く備蓄する場合、一度自治体や所轄の消防署へ確認することをおすすめします。
《まとめ|生活環境に合わせた無理のない燃料備蓄がベスト》
燃料はそれぞれ長所と短所があります。ガソリン・軽油や灯油は、発生するエネルギー量が多い代わりに、長期保存ができません。カセットガスは長期保存が可能ですが、発電機やストーブに使用すると、発生できるエネルギー量はガソリン・軽油や灯油には劣ります。
燃料を災害専用に備えるのではなく、日常生活の延長でどう備えるかを考えなければなりません。
神奈川県にある我が家を例にとると、灯油を使う暖房器具は使わないため、灯油をストックすることは現実的ではありません。車の給油を早めに行うこと、カセットガスを十分量備蓄し、時々カセットコンロやカセットガスファンヒーターで定期的に消費することが現実的と考えています。
それぞれの燃料の長所・短所を考え、ご自身の生活に合った備蓄をするようにしましょう。