マンション防災 〜防災的な利点は「高さ」であり、弱点もまた「高さ」にある〜

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《災害時におけるマンションの被害の特徴》

1981年(昭和56年)6月以降に建築確認を受けたマンションであれば、「新耐震基準」に適合しているため、基本的に地震に強い構造となっています。地震で倒壊する可能性は極めて低いといえます。しかし、主要構造部に被害がなくても、生活に必要な共用部分(水道や電気)が被害を受ける場合があります。

災害時におけるマンションの利点は「高さ」であり、「高さ」があるため津波や水害、土砂崩れの直接的な被害を受けにくくなっています。

しかし逆に、マンションの弱点も「高さ」であるといえます。普段はエレベーターや水道(給水ポンプ)を電気の力で補うことで「高さ」を克服しているため、停電が起きると、一戸建て住宅より不便な環境となります。

マンション中高層階に住んでいる私を含め、マンションに住んでいる方々はマンションの特徴をおさえた防災対策を意識する必要があります。

《長周期地震動》

長周期地震動階級(出典:気象庁)

規模の大きい地震が発生すると、高層マンションなどの高層建築物では、揺れの周期が数秒〜20秒程度と長い「長周期地震動」が起こります。これは、建物固有の揺れやすい周期(固有周期)と、地震の周期が一致することにより共振を起こすためです。

長周期地震動では、船酔いを起こすようなゆっくりとした揺れが長時間続きます。

2004年の新潟県中越地震では、長周期地震動により東京の六本木ヒルズのエレベーター1基のワイヤが切断され、2011年3月11日の東日本大震災では、東京の西新宿の高層ビルで最大1m程の揺れが最大約13分間も続いています。

気象庁では、長周期地震動を4階級に分けて指標としています。特に高層マンションにおいては、長周期地震動により室内の家具や家電が散乱して怪我をする可能性があり、家具の固定がますます重要となります。

長周期地震動は、人命にかかわる重大な被害が出るおそれがあり、近年の高層ビル増加により、影響を受ける人口が増加しています。長周期地震動階級予測の技術が発達し実用的となったこともあり、2023年2月1日より緊急地震速報の発表基準に、長周期地震動の予測が加わりました

4段階ある長周期地震動階級のうち、「人が立っているのが困難で、固定していない家具が移動することがある」3以上が予測される地域も、緊急地震速報(警報)発表の対象となります。

緊急地震速報(警報)発表の基準として、震度5弱以上を予想した場合 または 長周期地震動階級3以上を予想した場合に、震度4以上が予測される地域 または 長周期地震動3以上が 予測される地域に対して発表されます。

《ライフラインの停止》

おおむね4階以上のマンションでは、水はポンプで上層階へ送っています。また高層マンションでは、下水の排水にもポンプを使っています。地下の汚水槽に汚水を貯め、ポンプで公共下水道に放流しているため、停電になるとポンプが動かず下水も使えなくなります(正確には、汚水槽が満タンになると下層階の排水口から溢れる可能性があります)。

そのため、上水道自体の断水、停電のどちらか1つが起こっただけで、水道も使えず排水もできなくなります。また、停電ではエレベーターが停止し、地上から水や食料など物資の運搬は階段を使うしかなくなります。非常用発電装置を備えているマンションでは、稼働している間はエレベーターは動きますが、災害後の物流停止で燃料が枯渇すれば、電気の供給はできなくなります。

大地震だけでなく、マンションは洪水や内水氾濫といった水害にも注意が必要です。電源設備、非常用電発電装置などは1階や地下に備わっていることが多く、電源設備が浸水により故障すると、マンション全体が停電となります。

実際、2019年の令和元年東日本台風では、神奈川県川崎市武蔵小杉のタワーマンションが浸水し、地下の電気設備が故障して停電が発生し、断水、エレベーターの停止などが発生しました。

マンションではエレベーター閉じ込めも発生します。エレベーター閉じ込め問題についてはこちら。 ↓

大地震によるエレベーター閉じ込め問題 〜地震時管制運転装置とその限界|閉じ込められない対策|閉じ込められた時の対策〜

《そもそも避難所はマンション住人を受け入れる想定はしていない》

被災して自宅で避難生活が送れなくなったら「避難所に行けばいい」と考える方が多いです。しかし避難所は、家が倒壊してしまったり、倒壊する可能性が高いなど、住む場所を失った人達のために優先的に開かれる場所です。特に人口密集地域では、住民数に比べ避難所の収容数は圧倒的に少ないことがほとんどです。

損壊する可能性の低いマンションの住民は、基本的に避難所には入れないと考えておくべきです。そもそも避難所は、狭い生活空間でプライバシーもなく、衛生面や防犯面の心配もある苛酷な環境です。自宅で避難生活を送る「在宅避難」の方がはるかに快適に過ごすことができます。ただし、マンション住人が「在宅避難」を送るためには、事前の備えが不可欠となります。

《マンション防災の心構え》

家具の固定
出火しやすいキッチンは特に要注意

大地震が発生すると、家具の転倒や物の散乱によりケガをしたり、生活を送ることが難しくなることがあります。「在宅避難」を送るためにも、家具の固定は必ずしておきましょう。

また、火災が発生した場合に重要なことは初期消火です。消火器は必ず備え、出火リスクの高いキッチン近くには小さめの消火器を設置しておくと安心です。

マンションでは管理組合などで防災対策を一元的に行っていることが大半です。管理組合に任せっきりにするのではなく、備蓄や防災マニュアルを確認し、自ら備えを行うことが必要です。食料、飲料水、非常用トイレなどを最低でも1週間は備蓄しておきましょう。

またどんなに最新式のマンションであっても、想定外の災害や事象により、断水や停電は起こるものという認識を持っておくべきです。エレベーターが停止し、高層階で孤立してしまう「高層難民」という言葉もあります。できれば1度はエレベーターを使わずに、自宅の階まで階段で上ってみることをおすすめします。災害時には、例えば給水車が配備されたとして、地上から高層階まで5L、10Lの水を持って、階段を上らなくてはならない可能性もあります。

「そんなの無理だ」という方は、ライフラインが回復する数日から1週間、さらには超巨大災害では1ヶ月以上、自宅に立て篭もる覚悟が必要となってしまいます。ただ、十分な備蓄があればそれも可能と言えるかもしれません。

《もしものことを想定し、疎開先を考えておく》

普段からの親戚付き合いが、災害時に役に立つかもしれません

災害に想定外はつきものです。どれだけ災害に備えていても、予想外の被害により在宅避難が困難となる可能性もあります。その場合、先述の通りマンションの住民は避難所への避難は難しいため、少し遠方の親戚の家など、疎開できる先を考えておきましょう。これはマンション住民に限らず、一戸建ての住民にも当てはまります。

平時からもしもの時について、あらかじめ相談しておくとよいです。困った時はお互い様で、自分が困ったらその親戚に頼り、親戚が困ったら自分が助ける、いわば「防災協定」のようなものをあらかじめ決めておくことも、重要な防災対策となります。