ご自宅に常備薬は備えていますか?薬の入った、昔ながらの木製の救急箱が家にある方もいるかもしれませんし、タンスや棚の一角を薬置き場にしている方もいるかもしれません。逆に薬は全く備えていないという方もいると思います。
自宅に常備薬(市販薬)や応急処置グッズを備えておくと、平時だけでなくいざ災害が発生した時に、医療機関を受診しなくても速やかに対処することができます。
また、2023年現在進行形の新型コロナウイルス感染症パンデミックにおいては、ある日突然自分が陽性者または濃厚接触者になり、いつ自宅療養・自宅待機が必要になるか分かりません。陽性者または濃厚接触者になると、気軽にドラッグストアへ行くことができなくなるため、やはり自宅に常備薬は備えておくべきと言えます。
災害や防災を意識し、普段からも備えておきたい常備薬や応急処置グッズについて、現役医師で総合内科専門医でもある私ドクターソナエルが紹介します。
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この記事の中で紹介する具体的な医薬品については、特定の製薬会社等との利益相反はありません。
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目次
【薬の備蓄が必要な理由】
自宅に常備薬の準備があり、かぜや胃腸炎など軽い症状であれば、自宅で速やかにセルフメディケーションで治療開始することができます。
特に災害時はライフライン・インフラ停止により衛生環境が悪くなりがちで、災害のストレスにより免疫力が低下し、体調を崩しやすくなります。多数の傷病者が発生する災害の場合、医療機関の機能は麻痺するため、ある程度の傷病に対しては自分でケアするセルフメディケーションが重要となります。
常備薬がなければドラッグストアへ求めに行くことになりますが、災害時のドラッグストアではそもそも店が開かない可能性もあり、開いていても薬や応急処置グッズは需要が多く、売り切れが続出します。そうなるとセルフメディケーションは困難となります。
【新型コロナウイルス感染症の流行期には薬局で感冒薬の売り切れが続出した】
これは災害時だけでなく、2023年現在進行形の新型コロナウイルス感染症パンデミックにおいても同じことが言えます。
我々が働く医療現場でも解熱鎮痛薬であるアセトアミノフェンが品薄・入荷未定となり、主要な鎮咳薬(咳止め)なども相次いで品薄となり、他剤を代用したりして対応しました。ドラッグストアにある市販の感冒薬も品薄・品切れが続出し、個人の買い占め、中国人による爆買いなどもニュースで話題になりました。
新型コロナ流行期においては、医療機関のひっ迫により受診したくても受診できなかったり、受診までに相当な時間がかかる場合もあります。医療機関を受診し、新型コロナ陽性と診断されても、重症化リスクがある例や中等〜重症例を除き、基本的には市販薬と同じような内容の薬が処方され、対症療法となります。
自宅に常備薬があれば、医療機関が受診しづらい状況でも、自宅で速やかに治療開始することができます。併せて備えておきたいのが、特定の感染症を診断するための検査キットです。
新型コロナウイルスとインフルエンザの抗原検査キットも準備しましょう
新型コロナウイルスなど特定の感染症流行期には、「診断」を行うための検査キット(抗原検査キット)も備えておくと安心です。検査キットと常備薬が自宅にあれば、無理に医療機関を受診しなくても、医療機関から受けるものとそれほど大差ない、「診断」から「治療」までを自宅で完結させることができます(重症化リスクがある、症状が極めて強い、呼吸苦があるなどの場合は医療機関受診が必要です)。
そのため、検査キットと常備薬は、ぜひ平時から備えるようにしてください。
新型コロナウイルスの場合、検査キットによる自己検査がすすめられているのは、重症化リスクが低い軽症者です。「小学生以下、65歳以上の高齢者、基礎疾患がある方、妊婦の方」以外が対象となります。陽性で、重症化リスクのない発生届の対象外の方であれば、自治体へ陽性者登録をした上で自宅療養をすることができます(2023年01月時点)。
2022年12月からは、新型コロナだけでなくインフルエンザも同時に調べられる抗原検査キットも一般販売されています。インフルエンザが陽性の場合、発症から48時間以内であれば、医療機関で抗インフルエンザ薬の処方を受けることにより、症状を早く治めることができます。
購入する場合は、必ず「体外診断用医薬品」または「第1類医薬品」と記載された製品を購入するようにしてください。厚生労働省から承認を受けたキットは、このどちらかが必ず記載されています。承認を受けていない「研究用」のキットは、検査精度が保証されておらず、新型コロナウイルスの場合陽性と結果が出ても自治体へ陽性者登録をすることができません。
【医療用医薬品(医師や歯科医師から処方される薬)は1週間分の予備を】
市販薬・常備薬は、風邪・胃腸炎など主に急性症状を治療するためのものになります。これに対し、何らかの疾患を持ち、医療機関から処方される薬(以下、処方薬)は、それぞれ疾患を持つ人にとって不可欠な薬と言えます。
先にも述べましたが、災害時は医療機関の機能がひっ迫したり麻痺することが多々あり、その場合は新たに処方薬を受け取ることができなくなります。処方薬の内容によっては、短期間の内服中断でも命に関わる場合もあります。自分に必要な処方薬は、必ず予備を準備しておきましょう。
最低3日分、できれば1週間分は予備があると安心です。私の場合、患者さんには1週間分の予備を持っておくことをお勧めしています。ぜひ主治医の先生と相談してみください。
お薬手帳は必ず持ち歩く
病院やクリニックから薬の処方を受けている方は、「お薬手帳」を必ず持ち歩くようにしてください。これは平時においても、複数の医療機関を受診する場合や、体調不良でかかりつけではない医療機関を臨時で受診する場合などにも非常に役立ちます。
我々も実際、医療現場において他の医療機関で薬が処方されていても、お薬手帳がないため何を飲んでいるのかが分からない事態に度々遭遇します。本人や家族へ尋ねると、大抵「小さな白い粒の…」や「銀のシートに入ってる…」と返答が返ってきますが、世の処方薬は大体同じようなものばかりです。平時ならまだしも、災害時に薬剤名が分からないと、我々医療者もどうしようもできない場合があります。
また災害時は流通が停止するため、いつも飲んでいるものと同じ薬が処方できるとは限らず、お薬手帳をもとに代替できる薬を検討することになります。自分の身を守るという意味でも、普段から(特に災害時は)お薬手帳は必ず持ち歩くようにしてください。
実際に2011年の東日本大震災では、津波で何もかもが流された被災地において、手元にあったお薬手帳が非常に役に立った実例も多々あります。
スマートフォンのお薬手帳アプリもありますし、お薬手帳を写真で撮って保存しておくだけでもお薬手帳代わりにすることができます。
【自宅に備えておきたい常備薬】
自宅に備えるべき薬の種類は①胃腸薬、②総合感冒薬(かぜ薬)、③解熱鎮痛剤、④抗アレルギー薬、⑤皮膚治療薬(ぬり薬)です。この他、応急処置グッズなどを備えておくと安心です。
この他にも、普段から使うものは在庫を切らさないように管理しておきましょう。
①胃腸薬
胃腸は不安やストレスに敏感で、下痢や便秘のどちらも起こしやすくなります。
また、災害時は感染性の胃腸炎のリスクがあります。胃の薬、腸の薬をそれぞれ備えるか、もしくは両方に効く薬を備えておきましょう。感染性の腸炎が疑われる場合、下痢止めは腸炎を悪化させる可能性があるため、基本的に使わないようにします。
普段便秘の人は、便秘薬も忘れずに備えておきましょう。
おすすめの胃腸薬
《ガスター10®︎(第一三共ヘルスケア)》
胃酸を強力に抑えるため、胃潰瘍の治療に使われることもあります。
《第一三共胃腸薬プラス®︎(第一三共ヘルスケア)》
消化酵素、健胃成分に加え整腸剤も含有されているため、腸内環境改善効果もあります。
《新ビオフェルミンS®︎(大正製薬)》
腸内環境改善効果により、便通改善効果があります。また感染性腸炎に対して、症状緩和や有症状期間の短縮が期待できます。
《酸化マグネシウムE便秘薬®︎(健栄製薬)》
便秘薬です。非刺激性のためお腹が痛くなりづらく、スムーズな排便を促します。妊婦の方や5歳以上の子供も使用できます。
《ピコラックス®︎(佐藤製薬)》
便秘薬です。刺激性で腸を動かす薬です。そのため腹痛が出ることがありますが、比較的穏やかです。
②総合感冒薬(かぜ薬)
常備薬として総合感冒薬(かぜ薬)を選ぶ場合は、幅広い症状に対応した薬を備えておくと安心です。
総合感冒薬は主に解熱鎮痛剤、咳止め、痰切り、抗ヒスタミン剤が配合されており、これらの成分が発熱、のどの痛み、咳、くしゃみ、鼻水などの症状を和らげてくれます。
熱を下げてくれるのが解熱鎮痛剤で、アセトアミノフェン、ロキソプロフェン、イブプロフェンなどがあります。アセトアミノフェンは胃腸への負担が少なく、妊婦や子どもでも使いやすい成分です。
のどの痛みを和らげてくれるのが、トラネキサム酸です。
咳を抑えてくれるのが、コデインリン酸塩・ジヒドロコデインリン酸塩、デキストロメトルファン、ノスカピンなどです。コデインリン酸塩・ジヒドロコデインリン酸塩は、喘息発作中は使えず、副作用として便秘がある点に注意が必要です。
鼻水や鼻づまりを改善する目的で配合されているのが、ジフェンヒドラミン、クレマスチン、クロルフェにアミンといった抗ヒスタミン剤です。副作用として眠気があるため、運転が必要な場合や、高所作業などをする場合は注意が必要です。
総合感冒薬は様々な製品が販売されているため、薬局などで製品の注意書きをみて、自分だけでなく小さな子どもや基礎疾患を抱えた家族でも服用できるものを選ぶと、防災的にも役立ちます。
一般的なかぜはウイルス感染によるものであり、治療の基本はつらい症状の緩和を目的とした対症療法です。解熱鎮痛剤や抗ヒスタミン剤などが含有されているため、中には苦手な方もいるかもしれません。できれば自然な感じに治したいという方には、漢方薬もオススメです。
おすすめの総合感冒薬(かぜ薬)
《新ルルAゴールドDX®︎(第一三共ヘルスケア)》
新ルルAゴールドDX®︎は、解熱剤としてアセトアミノフェン、のどの炎症を抑えるトラネキサム酸、鼻水・鼻づまりを抑える持続性抗ヒスタミン剤のクレマスチンフマル酸塩、副交感神経遮断成分のベラドンナ総アルカロイドが含まれており、辛いかぜの11症状に効果があります。7歳以上から使える点もメリットです。
《葛根湯、小青竜湯(漢方薬)》
かぜのひき始めで、初期の頭痛、発熱、首の後ろのこわばり、寒気などあれば葛根湯が有効です。鼻水、痰、咳、くしゃみ、鼻づまりがあれば小青竜湯が効果的です。いずれも独特な風味があるため、顆粒タイプが苦手ならドリンクタイプや錠剤タイプも市販されています。
葛根湯、小青竜湯は私も愛用しています。かぜのひき始めに葛根湯を飲み、鼻水・咳・痰が出てくれば小青竜湯を飲む、というようにしています。
③解熱鎮痛薬
解熱鎮痛薬は、発熱、疼痛時に使用することにより辛い症状を改善し、行動力や判断力を改善させることができます。
解熱鎮痛薬には「NSAIDs(エヌセイズ:非ステロイド性抗炎症薬)」と呼ばれるものと、それ以外のもの(アセトアミノフェン)があります。
代表的なNSAIDsとしてはアスピリン、ロキソプロフェン、イブプロフェンなどがあり、熱や痛みを速やかに抑えます。副作用として胃腸の粘膜や腎臓、肝臓の機能に影響を与えることがあります。また一部のNSAIDsについて、小児に起こりやすいインフルエンザ脳炎・脳症に何らかの関与をしている可能性が示唆されており(ライ症候群)、インフルエンザ治療に際してはNSAIDsの使用は慎重にすべきと考えられています。
アセトアミノフェンは比較的安全性が高く、妊婦や小児にも使用することができます。NSAIDsと比較し、抗炎症作用は低いとされています。妊娠後期の妊婦がアセトアミノフェンを内服する場合、胎児に動脈管収縮を起こす可能性があるため、長期の漫然とした使用はしないようにしましょう。
おすすめの解熱鎮痛薬
《ロキソニンSプラス®︎(第一三共ヘルスケア)》
最も有名なロキソプロフェンナトリウム水和物に、酸化マグネシウムを加えて胃への負担を少なくした商品です。強力な解熱・鎮痛作用があります。
《タイレノールA®︎(ジョンソン・エンド・ジョンソン)》
アセトアミノフェン300mgが含有されている製品です。
《ナロン錠®︎(大正製薬)》
比較的安全なアセトアミノフェンを主成分とし、エテンザミドの解熱鎮痛作用、ブロモバレリル尿素の鎮静作用を加えた商品で、痛みを効果的に抑えます。8歳以上から飲むことができます。
④抗アレルギー薬
各種アレルギーに対して使用できます。花粉症だけでなく蕁麻疹に対しても改善効果があり、幅広く使うことができます。アレルギー症状は重症化すると危険なため、災害時は備えておくべき薬剤と言えます。
一般的に抗アレルギー作用が強くなると、眠気の副作用が強くなる傾向があります。
おすすめの抗アレルギー薬
《アレジオン20®︎(エスエス製薬)》
市販薬の中で、眠気の出にくさ、抗アレルギー作用のバランスが良好です。
《アレグラFX®︎(久光製薬)》
眠気が非常に少なく、効果も安定しています。極力眠気が出にくいものを選びたい時におすすめです。
⑤皮膚疾患治療薬(ぬり薬)
平時は軽度の湿疹にも使え、災害時は機械的・化学的な刺激や虫刺されによる皮膚炎に対応できるように、皮膚疾患治療薬(ぬり薬)を常備しておくと安心です。ぬり薬については、皮膚科専門医(筆者の妻)の意見も参考にしています。
ステロイド成分含有のものであれば皮膚の炎症を速やかに抑えてくれ、抗生物質含有のものであれば細菌感染も抑えてくれます。しかし、安易なステロイド・抗生物質含有外用薬の使用は賛否両論あります。
市販薬によるセルフメディケーションが可能な皮膚炎としては、原因(物理的刺激や化学的刺激など)がはっきりしている皮膚症状、一時的な湿疹、虫刺され、あせも、日焼けなどが目安です。
逆に皮膚科受診が望ましい湿疹としては、原因が不明の湿疹、広範囲の湿疹、急速に悪化する湿疹、市販薬を数日使用しても改善が乏しい、全身症状(発熱、だるさなど)を伴う、軽快と悪化を繰り返しているものが挙げられます。
おすすめの皮膚疾患治療薬(ぬり薬)
《オイラックスソフト(第一三共ヘルスケア)》
顔など敏感な部分やデリケートゾーンのかゆみにも使用できる、ノンステロイド(ステロイド非含有)タイプのぬり薬です。赤ちゃんに使うこともできます。
《クロマイ-P軟膏AS(第一三共ヘルスケア)》
2種類の抗生物質(クロラムフェニコール、フラジオマイシン硫酸塩)とステロイド(プレドニゾロン)が含有されています。化膿を伴う皮膚炎から湿疹まで幅広く対応することができます。
セルフメディケーション上の注意
いずれの薬も人によって合う、合わない、併存疾患によっては使えないものなどあるため、それぞれ注意書きをよく読み、自分に合った常備薬を選ぶことが重要です。悩む場合は、詳しくは薬剤師へ相談するようにしましょう。
用法容量を守り、小児には小児用の薬を選んでください。また、市販薬を数日使用しても改善しない場合は医療機関を受診しましょう。
⑥応急処置グッズ、その他
怪我に対する簡単な処置もできるようにしておくと安心です。消毒薬やいわゆる救急セット、体温計などを忘れずに準備しておきましょう。
- 消毒液
- ガーゼ
- 三角巾
- 湿布
- とげ抜き、ピンセット
- 絆創膏
- 包帯
- 止血パット
- 体温計
- パルスオキシメーター(動脈血酸素飽和度測定器)
「携帯薬」も準備しておきましょう
いざという時用に家に備えておくのが「常備薬」ですが、普段からカバンに入れて持ち歩く「携帯薬」についても用意しておくと安心です。外出先で体調を崩した場合や、外出先で被災した場合、自宅から避難する時に持ち出す場合などを考え、必要最低限の薬を持ち歩く準備をしておきましょう。
先に紹介した胃腸薬、総合感冒薬(かぜ薬)、解熱鎮痛剤、抗アレルギー薬、皮膚治療薬(ぬり薬)を少量ずつ、おおむね1〜3日分用意しておくのがおすすめです。
ちなみに私の場合、主に処方箋が必要な薬(処方薬)で「携帯薬」を用意しています。
内容としては、胃薬(ネキシウム®︎)、吐き気止め(ナウゼリン®︎)、抗生物質耐性乳酸菌(ビオフェルミンR®︎)、解熱鎮痛薬(ロキソニン®︎, カロナール®︎)、せき止め(アスベリン®︎)、抗アレルギー薬(デザレックス®︎, ザイザル®︎)、抗生物質(ジスロマック®︎, バナン®︎, クラビット®︎)、ぬり薬(市販薬のベトネベートN軟膏AS®︎)、予備のコンタクトレンズです。
胃腸症状、感冒、発熱、アレルギー症状、疼痛、各種感染症にまんべんなく対応できるように、薬剤を選択しています。これらをお菓子の空き缶にまとめて持ち歩いています。いずれも、軟膏以外は医師の処方箋が必要な薬であるため、あくまで参考としてください。
【まとめ|平時からの備えが災害時にも役に立つ】
災害対策、防災対策にだけでなく、感染症パンデミックやちょっとした体調不良に対しても、常備薬の準備は非常に有効です。
特に、普段からよく使う薬については多めに買っておき、使った分をこまめに補充して在庫を確保する「ローリングストック」で備えると、日常の延長で備えることができます。
いま一度、ご自宅の常備薬や普段持ち歩く携帯薬について見直してみてはいかがでしょう。